人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『時の封土』<グイン・サーガ外伝>5 栗本薫

全5話からなる<グイン・サーガ>初の短編集。

「湖畔にて」は幼い頃、マルガの離宮でひと夏を過ごすマリウスことアル・ディーンを中心に、アルド・ナリスとの関わりを描いている。何も知らず幸せな生活を送っていたディーンが、ある切っ掛けで兄とのポジションを意識して行くようになっていく。この兄弟の屈折した感情のもつれは、この夏から芽生える。

「風の白馬/レムスの恋唄」は、友邦アルゴスにあってパロ奪還の軍を起こす前、様々な想いに囚われているレムスが主人公。ヒロインの名前がリン・メイなので「マクロスかよ?」と当時思ったことを思い出した。かなり残酷でありながら、同時に爽やかな印象も残す一篇である。

『時の封土』<グイン・サーガ外伝>5 栗本薫_e0033570_210912.jpg「時の封土」は『小説新潮』誌上で行われた、12カ月に亘って12の異なるジャンルの短編を連載する、という企画の一環で執筆されたもので、それらをまとめた『十二ヶ月』という短編集にも収録されている。グインとマリウスが旅の途中で時間と切り離された世界へとさ迷いこむという内容で、時系列的には外伝2の『イリスの石』より後ということになるのだろう。ただもう一人の相棒イシュトヴァーンが不在なので、外伝4『氷雪の女王』との関係性は不明。それともあくまで”番外編”として捉えるべきなのだろうか。

「白魔の谷/氷雪の女王再び」は、その『氷雪の女王』のストレートな続編。あのお話は唐突に終わってしまい、その結末はこちらに持ち越しになっているのだが、もしかすると書いているうちに予定の枚数をオーバーし、泣く泣くカットした部分を短編として独立させたのだろうか、などと勘ぐってしまうのだけれども、真相は如何に?

「樹怪/黄昏の国の戦士」、こちらはグインのシルヴィア皇女探索行の中での冒険で、本編では44巻から67巻、外伝では10巻から16巻までのどこかに入るであろう一挿話。作者が本来やりたかったのは、こういう物語なのかな。「時の封土」もそうだが、キャラクターを入れ替えるとそのまんま<トワイライト・サーガ>としても使えそう。
by odin2099 | 2012-11-16 21:02 | | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


by Excalibur