【徒然なるままに・・・】

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「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”

『さよならドビュッシー』(2013)

第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した中山七里の小説『さよならドビュッシー』が原作。これをどうやって映画にするんだろ?と思っていたけれど、橋本愛が良かった。でも原作小説を読んでなかったら、もっと素直に感動したろうに、と思う。いや、映画がダメだと言ってるんじゃなくて、どーしても比較しちゃうから。
で、この後はネタバレするので、読んでない・見てない人は出直してちょ。

 × × × × ×

小説は遥の一人称。なのでクライマックスのどんでん返しが生きてくる。まあ多少ずるいと思わないでもないけれど。でも映画は、遥を中心に据えてはいるけれど客観的に描写される。
また時間の関係だろうか、遥とルシアの癖や好みに対する描写がオミットされているので、最後まで入れ替わりには気付かれない。原作では母親がそれに気付き、介護士のみち子も何となく察していて、クライマックスで岬洋介が指摘することで読者に明らかにされるが、映画では遥(=ルシア)本人が岬に告白し、岬も以前からそれに気付いていたという流れになっている(そもそも事故以前に岬は二人と面識がない)。そして母親は死なないし、原作以上に事故だったことが強調されている。

e0033570_6373349.jpgその結果、岬をメインとした探偵モノの要素はなくなり、逆境をバネにのし上っていく強かな遥(=ルシア)は、罪も軽くなったことで望まずに他人として生きざるを得なくなった悲劇のヒロインの側面が強まり、ミステリーよりもメロドラマの色が濃くなってくる。これは濃密な原作に比して明らかに物足りない。

ただ、これを単純に「否」とはしない。
確かに原作からは大きな改変であり、ある意味で「犯人変え」に近い冒涜行為なのかも知れないが、一人の少女の映画としては立派に成立していると思うからだ。
特に橋本愛という表現者を得て、原作ほど強かではない代わりにより繊細な心を持った新しいヒロインとして、遥(=ルシア)はスクリーンの中で瑞々しい息遣い、そして大きな存在感を感じさせてくれている。演奏(音源)は吹き替えだが、演奏シーンそのものは彼女自身が演じ、指先に至るまで立派に役を体現している。

クライマックスは「アラベスク」、そして「月の光」の演奏シーンだが、カメラワークやカット割りの妙もあり、ゾクゾクする様な感動を味わわせてくれた。演奏の途中で遥の姿はルシアのそれに変わる。その後ろにはルシアの両親が立ち、祖父の玄太郎も控え、母親は彼女の髪をそっと撫でる。そしてそのルシアの姿を遥は微笑みながら見つめるのだ。
原作では有り得ないこの一連のシーンでの橋本愛とルシア役の相楽樹の熱演、その二人の為にもこの作品は「肯」としたいのだ。

もっとも映画としての限界は自ずと存在している。
遥とルシアは従姉妹同士で同い年であるだけでなく、背格好、髪の色、星座や血液型まで一緒という設定の筈だが、ルシアを演じた相楽樹と橋本愛では顔立ちが違うし、二人で並ぶと橋本愛の方が若干背が高く見えるというのは些か問題だろう(実年齢が相楽樹の方が一つ上というのは置いておくとして)。

そして岬洋介を演じた清塚信也。
流石に本職のピアニストだけあって演奏シーンのみならず指導するシーンも堂に入ったものになっているが、それだけで「岬洋介」というキャラクターが成り立っているのではない。芝居経験がないということは割り引くとしても、この軽薄さは役柄に相応しいとは思えず、やはり荷が勝ち過ぎたのだと判断せざるを得ない。

【ぼやき】
香月家が原作以上にギスギスした一家になっているのは何か理由があるんだろうか?
またエンドロール、あそこに主題歌はいらないだろう。ドビュッシーの曲があれば十分。もう一度「月の光」を流して欲しかった・・・。
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by odin2099 | 2013-01-28 06:38 |  映画感想<サ行> | Trackback(13) | Comments(6)
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Commented by sakurai at 2013-02-05 14:11 x
いやああ・・・いくら割り引いても、あれはないっすよ。
きっと原作未読の方でも、この物語の薄っぺらさには、椅子からずっこけるかもですよ。
ピアノの演奏や、推理もんとしても、十分きっちりとした物語で、そのまま生かしたほうが、よかったと思います。
わざわざR15風な原作を小学生も見れるものに変えたみたいな。
あとは、配役陣がなあ。岬先生って、超ハンサムなはず・・・・。あ、だめだ。ネガティブなことしか思いつかない。。。
Commented by odin2099 at 2013-02-05 21:53
うーん、手厳しいなあ。
いや、決して傑作だとは思わないし(原作者は「社交辞令抜きで大傑作」と言ってますから文句はないんでしょう)、キャストにも不満あるし、シナリオもどうなのよ、と思わないでもないですが、クライマックスの「アラベスク」と「月の光」で許せるなあという気分なんですが・・・(^^ゞ

岬先生は原作者の弁によると「イケメンの金田一耕助」らしいので、あの鬱陶しいボサボサ頭はピッタリなのかも。
まー、映画見る限り、ちょっと天然なお兄ちゃんでしかないですがね。あれで司法試験トップの秀才かよ、てなとこで。
Commented by Nakaji at 2013-02-21 21:06 x
こんにちは♪
岬先生はもっと演技のできる人にして欲しかった。。。
ピアノはさすがだったんですけどね~
まあ、ラストの2曲でOKって言いたかったけど、
なんか原本が好きだからもったいなかったです。
Commented by odin2099 at 2013-02-21 23:25
キャストが発表された時の一番の懸念材料でしたけどね、岬先生。
ピアノ演奏の吹替だけにしておいて、演技は別の人にやってもらった方が良かっただろうと思います。
皮肉なことに、橋本愛の演奏シーンがそれなりに様になっているので、岬先生の演奏シーンも「あ、本当に本人が弾いてるんだ!」という感動が薄れてるんですよね。
まあ今のままだと、続編の映画化はないかな。
Commented by ふじき78 at 2013-04-16 00:40 x
こんちは。
原作未読なので、バッチリ楽しめました(橋本愛がかーいそーで、かーいそーで)。やはり、映画は基本、原作未読の方が楽しめるなあ。

岬先生はきっと違うんだろうなと思ってました。

そして、原作を越えるためにはミッキー・カーチスにTシャツを着せるしかないなと思いました。
Commented by odin2099 at 2013-04-16 19:58
橋本愛も原作のイメージとは違うんですが、なんか健気で良かったです。
岬先生はあんなに軽くはないし。
犯人は原作と同じですが、映画の方がゆるく描かれてますね。多分、刑も軽くなりそう。

ミッキー・カーティス、原作だと生前のおじいちゃんを主役にしたスピンオフの短編物があるので、そちらも映像化したら面白いかも知れません。

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