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『ばけもの好む中将/平安不思議めぐり』 瀬川貴次

右兵衛佐宗孝は、とある切っ掛けで左近衛中将宣能と知り合うことになった。眉目秀麗な上流貴族の宣能だったが、唯一の欠点は怪異を愛でるという趣味で、<ばけもの好む中将>と渾名されていたのだ。異母姉12人を持つ中流貴族の宗孝は平凡な好青年だったが、何故か宣能に気に入られてしまい……。

『ばけもの好む中将/平安不思議めぐり』 瀬川貴次_e0033570_22253135.jpg平安時代を舞台に貴族のコンビが怪異に挑むということで、読む前は夢枕漠の『陰陽師』シリーズみたいなものかな、と考えてました。
確かに影響は受けてるんじゃないかと思います、キャラクターの配置など。個性豊かな姉たちの下で育った唯一の”男子”、純朴で素直な宗孝と、何をやらせても様になる名門貴族の御曹司、ちょいと底意地の悪いイケメン宣能の組み合わせには既視感が漂いますし。
でももっとライトでコミカルなものになっていました。

思いっきりネタバレしてしまうと、この本には四つの短編が収められていますが、”ホンモノ”の怪異は一つもありません。物の怪ではなく人の仕業なのです。しかしその背後にはなかなか複雑な人間模様、いわゆる政争というものが隠されていて、この部分はかなり読み応えがあります。しかも”鬼の仕業”でないことに毎度落胆しながらも、それを見抜く宣能の鋭い観察力は、かえって物語の構造がファンタジーに逃げていないだけに光るものがあります。ホームズ・ワトソンコンビのヴァリエーションとしては上々の部類でしょう。

となると、シリーズ化を望みたいところですね。
宗孝の強烈な姉たちの何人かは物語の中に出てきましたが、まだまだ語られていない人は大勢いますし、不思議な能力を持った宣能の妹、何やら企む(?)宣能の叔母やら曲者も揃っています。
はたして宣能は本当の怪異に遭遇出来るのか、あるいは宗孝は嫌々ながら直面してしまうのか、続きが読みたくなりますねえ。
by odin2099 | 2013-05-24 22:33 | | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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