【徒然なるままに・・・】

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「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”

『妖星ゴラス』(1962)

大きさは地球の四分の三でありながら、質量はなんと6000倍という赤色巨星ゴラスが太陽系に侵入。このままでは地球と衝突の危険性があることが明らかになった。ゴラスを爆破するか、それとも地球の軌道を変えて難を避けるか、選択肢は二つに一つ。
調査の結果、6200倍もの質量に増加していたゴラスの爆破は不可能と判断され、人類は南極に巨大なロケットエンジンを設置し、地球を移動させる計画を進める。しかし計画の決定に時間が掛かったことや、事故や巨大怪獣の出現によって工事は遅れる。果たして人類は未曾有の危機を乗り越えることが出来るのか?!

1951年に製作されたアメリカ映画『地球最後の日』でも同様のシチュエーションが描かれているが、あちらでは”ノアの箱舟”よろしく人類を脱出させ、すれ違う天体に新天地を求めているし、後の『メテオ』『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』ではひたすら爆破計画が推し進められていくが、この作品での「地球そのものを動かす」という発想は大胆かつ斬新。最初に観たのは小学生の頃TVで、その時はあまりのバカバカしさに呆れたものだったが、見直す度に新発見があり、今ではお気に入りの一本。

e0033570_022286.jpg上映時間は1時間半に満たないが、兎に角密度が濃い
物語内の時間経過は2年余りだが、その中で最初にゴラスに遭遇する人類初の木星探査ロケットとその乗組員のドラマがあり(ゴラスの引力圏に捕らえられ、脱出叶わず地球へ貴重なデータを送信し、万歳三唱で玉砕!)、そのロケットの単独行動が命令違反か否かで揺れる政府首脳たちを描いた政争劇があり、事故でフィアンセを喪ったヒロインとその彼女に想いを寄せるパイロットのドラマがあり、ロケットの艇長だった父を亡くしながら祖父と共に南極計画に賭ける科学者を支えるもう一人のヒロインあり・・・と、実に様々なエピソードが詰め込まれている。

そして豪華な出演陣。
主人公となる科学者とその恩師には池部良、上原謙といった特撮作品には珍しい配役がなされ、物語の事実上のヒーローであるパイロットを久保明が演じ、その彼らを志村喬や平田昭彦、佐原健二といった御馴染みの顔触れが支え、そして水野久美と白川由美の二人が彩りを添えている(ちょっとしたお色気シーンもあり、子ども向けには作られていない)。
更に田崎潤クラスを冒頭部分のみで使い切り、西村晃、小沢栄太郎、佐々木孝丸、河津清三郎あたりが脇をガッチリ固めるという贅沢さ。若手では二瓶正典(二瓶正也)が目立っており、後の『ウルトラマン』イデ隊員を髣髴とさせる活躍ぶり。そういえば『ウルトラマン』科学特捜隊のジェットビートル機は、この作品で使われたミニチュアを流用したものだ。

天変地異の描写はあるものの、一般人のパニックシーンは殆どなく(というより地球の危機を危惧しているのは科学者ら専門家のみで、一般人だけでなく政治家たちもどこか他人事のように受け止めているという秀逸さ)、地球を救うべく様々な方法を検討し、陣頭指揮を執る科学者たちと、実際に前線に赴く宇宙パイロットたちに焦点を絞ったドラマ作りは、ともすれば退屈なディスカッションドラマになりかねないが、微妙な匙加減でそれを回避。もっともっと掘り下げて欲しいキャラクターや個々のエピソードもあるものの、これでもかこれでもかとたたみ込む展開は非常に盛りあがる。これが黄金期の日本映画の実力なのだろう。今では叶わぬ夢か。
夢といえば、作品の時代設定は80年代初頭。製作時より30年先の未来を想定していたのだが、現実はまだまだ追いつかず、人類は未だ恒久的に宇宙を生活の場にはしていないのはどこか寂しい。

音楽の石井歓は、伊福部昭のピンチヒッターだったと聞いたことがあるが、この作品への起用は大成功だろう。「ゴラスのテーマ」が師匠である伊福部昭の「ゴジラのテーマ」にチラっと似ているのはご愛嬌。また劇中に何度も流れる挿入歌「おいら宇宙のパイロット」は、今なお根強いファンを持つ東宝特撮ファンの愛唱歌となっている。

難を言えば、父が、恋人が人類初の偉業に旅立とうとする時に、二人のヒロインが夜の湖へ泳ぎに出掛けようとするのが不自然に感じられるのと、工事の妨害をする怪獣マグマの出現が著しく世界観を損ねている等々の問題点がないではないが、まず東宝特撮黄金期の実力を如実に示す一本。宇宙を題材にしたSFモノ、怪獣モノ、それにどことなく戦記モノを感じさせる作品内容も東宝特撮集大成の趣き。
本多猪四郎監督といえば『ゴジラ』の名前が先ず第一に挙がるだろうが、個人的には本多監督の最高傑作はこの作品だと思っている。
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by odin2099 | 2007-12-18 06:23 |  映画感想<ヤ行> | Trackback(5) | Comments(2)
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地球を動かしちゃうって発想が超斬新でしたね。
動いた時点で天変地異で人類滅亡という感じですが・・・。(笑)
怪獣は無理矢理出したんでしょうね。
Commented by odin2099 at 2007-12-23 23:23
地球は自転してますから、南極にロケットエンジン設置しても常に同じ方向に噴射出来る訳はないですよね。
地球の自転が加速されてグルングルン回っちゃう、なんてことはないんでしょうか(笑)。

それに仰るとおり無茶な動きを加えると、地球上は大災害に見舞われそうなんですが、まぁそういうことは考えちゃダメですね(苦笑)。
一応科学者も映画製作のブレーンとして参加していたようなので、それなりのエクスキューズは用意していたんじゃないかと思っています。

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