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『今そこにある危機』(1994)

大統領の友人ハーディン一家が殺害され、逮捕された犯人が麻薬カルテルの人間であることが判明した。大統領は「麻薬カルテルは合衆国にとって゛今そこにある危機"だ」としてその撲滅を公約する。調査を進めるうちにジャック・ライアンは、ハーディンが麻薬カルテルと深い関係を持っていた事実を突き止めた。だがその頃、議会の承認無しに麻薬カルテルを撲滅するべく極秘裏に軍事作戦が発動。それを知らされなかったライアンは、議会で麻薬撲滅の為の資金援助を提案。それは決して軍事行動を伴うものではないと断言するのだったが・・・。

『今そこにある危機』(1994)_e0033570_2265841.jpg『レッド・オクトーバーを追え!』『パトリオット・ゲーム』に続くトム・クランシーの小説を映画化した<ジャック・ライアン物>の第3作ですが、原作『いま、そこにある危機』は、『クレムリンの枢機卿(カーディナル)』に続くシリーズの4作目となります。
物語としても『レッド・オクトーバーを追え』、『愛国者のゲーム』、そして『クレムリンの枢機卿』で三部作といった按配で、『クレムリン~』で重要な役割を担うキャラクターを、予め『レッド・オクトーバー~』でチラっとだけ登場させるという用意周到ぶりです。そしてこの『いま、そこにある危機』から、シリーズは新たな展開を迎えます。
ちなみに『クレムリン~』にはレッド・オクトーバー号の艦長だったラミウスが再登場しているので、ライアン役のハリソン・フォードとラミウス役のショーン・コネリーとの、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』以来の再共演が実現するかも?という期待もあったのですが、結局は幻に終ってしまいました。

シリーズが新展開を迎えた証拠に、実は原作での主人公はライアンではありません
映画ではウィレム・デフォーが演じているCIA工作員のジョン・クラークが本来の主人公で、ライアンは表舞台には出て来ない重要な脇役といったポジションなのです。ライアンは映画同様、病に倒れたグリーア提督(唯一3作共通のキャラクターで、ジェームズ・アール・ジョーンズが演じています)を補佐するべくCIAの情報担当次官代行になり、今度は政争に巻き込まれていくようになってしまいます(やがて合衆国大統領にも就任します)。
クラークはそんなライアンに代って物語の中心的人物として描かれるようになり、遂にはライアン抜きの<ジョン・クラーク物>まで作られるようになりますが、この映画版では無理矢理ライアンを物語の中心に据え、あまつさえアクション・ヒーローとして描くことまでしてしまっています
元々ハリソン・フォードの起用にも難色を示し、前作『パトリオット・ゲーム』の出来にも不満の声を漏らしていたと伝えられるクランシーは、この改変に激怒し、興行的には満足すべき結果が得られたものの、シリーズは中断の憂き目を見ることになってしまいます。
個人的にも、後のシリーズ作品にも登場してくるキャラクターを何故か死なせてしまうといった改変、というより改悪には納得行かないものがありました。

その後、シリーズ復活に向けて製作会社とクランシーとの調整が計られ、ようやくベン・アフレックを3代目ライアンに迎え、設定をリセットし、『恐怖の総和』を原作とする『トータル・フィアーズ』が製作されたのは2002年になってからでした。
その間にはゲイリー・シニーズを主演にしたスピンオフの<クラーク物>の企画が持ち上がったり、クランシーがライアン役にキアヌ・リーブスを希望したり、と色々と動きはあったようですが・・・。

それにしても1作目で米ソの謀略を、2作目でアイルランドの独立運動を、そしてこの3作目では麻薬問題を取り上げるなど、同一シリーズでこれだけ幅広い題材を扱ったシリーズも珍しいでしょう。再びシリーズは中断状態にありますが、<ライアン物>、<クラーク物>共に幾つかの企画は動いているようです。
原作は何れも長大な作品ですので映画化するのは至難の業だとは思いますが、例え映画なりの改変を施したとしても、原作のイメージを損なわない作品作りを何としても実現して欲しいもの。遠からずスクリーンでライアンに、クラークに、また会える日を楽しみに待ちたいと思います。
by odin2099 | 2008-06-11 22:11 |  映画感想<ア行> | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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