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『のぼうの城』 和田竜

豊臣秀吉が小田原城に北条氏を攻めた際、配下の石田三成は支城の一つ忍城攻略を命じられた。しかし二万の大軍を率いた石田軍は、城に立て篭もる僅か二千の成田軍に大敗を喫してしまう。その総大将の名は成田長親。しかし長親は城内のみならず、百姓からも木偶の坊を縮めた”のぼう様”という蔑称で呼ばれている男だったのだ。

『のぼうの城』 和田竜_e0033570_9505179.jpg秀吉の小田原攻めは色々なエピソードに事欠かないが、まだまだこんな”知られざる話”があったのだなぁと感慨新た。人物描写は著者の想像に負う所が大きいと思うが、城を巡る攻防は史実に基づくもの。隆慶一郎の『一夢庵風流記』は、というよりもそれをコミカライズした原哲夫の『花の慶次』は、前田慶次郎という知られざる英雄を現代に甦らせたが、この作品における成田長親も或いはそのような存在になりそうな、そんな持て囃され方である。

元々著者はシナリオライターとして『忍ぶの城』という作品を書き上げ、こちらは映画化の企画も動いているらしいが、それに先駆ける形で小説として書き直したのだという。
そう言われるとキャラクターで運ぶストーリー展開や、テンポの良い会話の応酬など映画向きかなと思える部分もある。
また成田家の家老である正木丹波守、柴崎和泉守、酒巻靭負など成親を取り巻くキャラクターや、対する三成や大谷吉継、長束正家など魅力的な脇役も上手く配されている。

そして歴史モノ、時代小説というジャンル分けから想像される読みにくさとは無縁で、普通ならこの手のジャンルには手を出さないであろう若者層に受け入れられているらしいのも頷ける。おそらく彼らはライトノベル感覚でこの作品を受け止めているのであろう。コミカライズもされているようなので、是非そちらも読んでみたいものだ。

しかしながら、肝心の主人公「のぼう様」の魅力については今ひとつ伝わらない。
捉えどころのなさが成親の持ち味かと思うが、著者自身もその描写には苦慮したのではあるまいか。彼を盛り立てる人物を設定し、その口から語らせようというという魂胆だったのかも知れないが、皆が皆、己が見たい成親像をそれぞれ投影しただけに過ぎず、結局作品を通しての成親像というものは浮かび上がって来なかった。映像作品なら役者の力量で如何様にも見せられるかも知れないが、小説作品としてはこれはちと辛い。
ヒロインの位置に置かれている甲斐姫にしたところで、本来なら彼女単独で主役を張れるだけのポテンシャルを持ってるはずなのに、成親に翻弄されるだけの立場に甘んじているのは気の毒である。つまりは映画のノベライズ、”スケルトン小説”の域に留まった、というのは言いすぎだろうか。

ああ、早く映画で観たい。
Tracked from マロンカフェ 〜のんびり.. at 2008-12-28 10:40
タイトル : 和田竜  のぼうの城
アップしなければならない感想がかなりたまっているので、毎日更新しよう!と意気込んでいたのに・・・体調が思わしくなくて、PCを長時間見てるとぐるぐる眩暈がしてきて車酔い状態になったりで、ブログの更新にまで手が回りませんでした。(・ω・;A)アセアセ…頑張って更新しなくっちゃ!さて、私は歴史小説・時代小説が苦手なんです。でも、この苦手意識は克服したいなとは思っているのです。そこで手に取ったのがこの本。テレビCMでもバンバン流れているし、直木賞にもノミネートされていたし、とても評判がいいらしく読みやすいと聞...... more
Tracked from 粋な提案 at 2008-12-28 19:41
タイトル : のぼうの城 和田竜
装幀は山田満明。装画はオノ・ナツメ。城戸賞受賞脚本の小説化。 天下統一を目指す秀吉配下、石田三成は武州・忍城へ。 忍領全員が「(でく)のぼう様」と呼ぶ城代・成田長親が応対。 やむを得ず降伏の意向ぎ..... more
Tracked from まったり読書日記 at 2008-12-28 20:07
タイトル : のぼうの城 〔和田 竜〕
のぼうの城和田 竜小学館 2007-11-28売り上げランキング : 452おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools ≪内容≫ 時は乱世。天下統一を目指す秀吉の軍勢が唯一、落とせない城があった。 武州・忍城。周囲を湖で囲まれ、「浮城」と呼ばれていた。 城主・成田長親は....... more
Tracked from ぼちぼち at 2008-12-28 20:42
タイトル : のぼうの城
JUGEMテーマ:読書 映画化企画進行中!新しい英傑がここにある 戦国期、天下統一を目前に控えた豊臣秀吉は関東の雄・北条家に大軍を投じた。そのなかで最後まで落ちなかった支城があった。武州・忍城。周囲を湖で取り囲まれた「浮き城」の異名を持つ難攻不落の城である。秀吉方約2万の大軍を指揮した石田三成の水攻めにも屈せず、僅かの兵で抗戦した城代・成田長親は、領民たちに木偶の棒から取った「のぼう様」などと呼ばれても泰然としている御仁。城代として何ひとつふさわしい力を持たぬ、文字通りの木偶の棒であったが、...... more
Tracked from 空色レールウェイ at 2008-12-28 22:08
タイトル : 「のぼうの城」 和田竜
時は、豊臣秀吉が日本のほぼ全てを手中に収めた、戦国時代末期。 秀吉は、日本中から兵を集め、残る関東の北条家に軍を差し向けます。 ところ変わって、忍城(おしじょう)を本拠とする成田家。 成田家は、永きに渡り、北条家と同盟関係にありました。 このまま同盟関係を続ければ、秀吉軍に攻め滅ぼされます・・・ 交戦か・・・降伏か・・・ その大きな体の割りに、不器用でなーんにもできないことから、 村民から「でくのぼう」→「のぼう」→「のぼう様」と呼ばれる、 成田家城代 成田長親は、圧倒的な兵力の差にもかかわ...... more
Tracked from ぱんどらの本箱 at 2008-12-28 22:54
タイトル : 和田竜【のぼうの城】
織田信長が本能寺で討たれてから8年後、関白となった豊臣秀吉は天下統一を期して、関東の覇者・北条氏を倒すべく小田原城に向け出陣。その一方で石田三成に、北条の支城である忍城(おしじょう)を攻め落とすよぎ..... more
Tracked from いつか どこかで at 2008-12-29 11:32
タイトル : 『のぼうの城』 和田竜
今日読んだ本は、和田竜さんの『のぼうの城』です。 図書館で予約したのですが、あまりの数の多さにやむなく買いました。... more
Tracked from ぷち てんてん at 2008-12-29 19:45
タイトル : 「のぼうの城」和田竜
ずっと、読めずにいた一冊。面白いという話を聞いていたので、かなり前に買って最初の10ページほど読みかけてあったんだけど、その続きがなんでか読めずにいたのです。しかし、旦那に「陽炎の辻を読み終わったから、代わりに何か本ない?」といわれ、思いだしたわけ。旦...... more
Tracked from Over The Moon at 2008-12-30 16:03
タイトル : のぼうの城
のぼうの城/和田 竜 ¥1,575 Amazon.co.jp この城、敵に回したが、間違いか。 時は乱世。天下統一を目指す秀吉の軍勢が 唯一、落とせない城があった。 武州・忍城。 周囲を、湖で囲まれ、「浮城」と呼ばれていた。 城主・成田長親は、領民から「のぼう様... more
Tracked from OL映画でいやし生活 at 2008-12-30 23:28
タイトル : 和田 竜著 『のぼうの城』
寒くて風邪ひきそうだから・・と自分に言い訳ができる季節となってきました。最近ジムサボリ気味です。なんやかんやでしばらくブログも放置してました。ご無沙汰してます。ごまです。なんやかんやの中には読書もありまして、『のぼうの城』読みました。日曜日に近所の喫茶...... more
Tracked from とにかく読書。 at 2009-01-12 22:36
タイトル : 「のぼうの城」 和田竜著
―内容(「BOOK」データベースより)― 時は乱世。天下統一を目指す秀吉の軍勢が唯一、落とせない城があった。武州・忍城。周囲を湖で囲まれ、「浮城」と呼ばれていた。城主・成田長親は、領民から「のぼう様」と呼ばれ、泰然としている男。智も仁も勇もないが、しかし、誰も及ばぬ「人気」があった―。 ―オススメ度―  ★★★☆☆ ―感想― 「三国志」や「水滸伝」などは大好きですが、秀吉とか信長とか、日本の歴史にはからっきし弱い私。でも、この作品はなかなか売れている様子で、少し興味を持っ...... more
Tracked from モコモコ雲を探しに♪ at 2009-04-17 13:17
タイトル : 「のぼうの城」(和田竜)
{{{ のぼうの城       和田竜      小学館    }}} 内容(「BOOK」データベースより) 時は乱世。天下統一を目指す秀吉の軍勢が唯一、落とせない城があった。武州・忍城。周囲を湖で囲まれ、「浮城」と呼ばれていた。城主・成田長親は、領民から「のぼう様」と呼ばれ、泰然としている男。智も仁も勇もないが、しかし、誰も及ばぬ「人気」があった―。 http://img.blogs.yahoo.co.jp/ybi/1/b4/b7/popkun_55/fold...... more
Tracked from はらやんの映画徒然草 at 2010-08-01 17:15
タイトル : 本 「のぼうの城」
直木賞ノミネート、09年本屋大賞2位の時代小説です。 本作がデビュー作の和田竜さ... more
Tracked from みゆみゆの徒然日記 at 2010-10-27 20:16
タイトル : 『のぼうの城』
和田竜/著  野村萬斎主演で映画化されるということで興味を持って以来ずっと読もうと思っていました。(その前からも話題の作品でしたしね。)そして最近文庫化されたのを購入して読みました。正直に申しまして、不勉強なので、この小説の舞台である忍城が石田...... more
Tracked from What's .. at 2010-11-22 12:51
タイトル : 完成されたバカ殿のかたち「のぼうの城」
寒い。こないだまで暑い暑い言ってたのに、寒い。 七分袖の出番がない。そして体調を崩す人続出。 書いてて思い出した。こないだ生まれて初めてぎっくり腰になりましたよ。 びっくりした。腰大事ね。 で、くの字で横たわったまま動けないもんだからこれを読んでた。 本人は立てもしないというのに、合戦ものですよw なんか日本史としての中央の歴史っていうの?そういうのは一応知っているのだけれど、 この物語の舞台となる埼玉方面とか、例えば私の田舎の諏訪の歴史とかといった 地方の歴史って縁のある人じゃないと知らないよね。...... more
Tracked from 国内航空券【チケットカフ.. at 2011-01-08 15:03
タイトル : 『のぼうの城』 和田竜著
豊臣秀吉の小田原攻め、天下統一への最後と戦。 圧倒的軍力を誇る秀吉軍に、多くの城が闘わずして開城する中、石田三成率いる2万余の兵力に対し、わずか500余の兵で戦いを挑み、最後まで落ちなかった城があった。 その忍城を率いるは、農民たちにバカにされつつも親しまれてい... more
Tracked from やっほっほ~ at 2011-01-20 21:45
タイトル : 初めて面白いと思った歴史小説!! 『のぼ...
   【送料無料】のぼうの城(上)  【送料無料】のぼうの城(下) 和田竜さんの作品 時は乱世。天下統一を目指す秀吉の軍勢が唯一、落とせない城があった。 武州・忍...... more
Tracked from ルナのシネマ缶 at 2011-05-02 01:12
タイトル : 「のぼうの城」和田 竜
のぼう様は、なかなか不思議な魅力の 愛すべきキャラでした! 彼の本心は、一切でてこないので ホントのところは (うつけなのか、策士なのか?) よくわからないけど 彼が誰に対しても、まったく 偉ぶらないところがなんか好感が持てる感じでした。 脇をかためる丹波、和泉、酒巻なども個性派揃いで面白いですし、 秀吉軍側も三成、吉継、正家となかなかエンタメ性が高いです。 そして、花を添える戦姫と名高い甲斐姫! ここまでくるとちょっとマンガチックですが 歴史娯楽物として楽しめました。 ...... more
Tracked from 花ごよみ at 2011-06-26 23:30
タイトル : のぼうの城 (和田竜)
「のぼう様」と呼ばれ、領民たちから、 愛される謎の男、成田長親。 埼玉県行田市に昔、忍城があり、 そこには 「のぼう様」と言われる城主の長男が居り、 三成に対して戦を始める。 「のぼう様」の由来は「でくのぼう」から 小さな城、忍城(おしじょう)に攻めてく...... more
by odin2099 | 2008-12-28 10:04 | | Trackback(19) | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


by Excalibur