――といいながらも、初登場となる黒太子スカールの出番は僅か、些か題名に偽りあり、の感がある「陰謀篇」その1。

そのスカールに代わって主役を張る(?)のが、これまた初登場となるアルド・ナリス。
モンゴールとの戦いで怪我を負い、行方不明と伝えられていた第三王位継承者にしてクリスタル公であるナリスが、今巻より本編に大きく関わっていくことになる。
グインやイシュト、リンダにレムスといったこれまでのメインキャラたちの出番は減ったが、その分モンゴールのヴラド大公をはじめ、ミアイル公子やパロ駐留部隊の面々、パロ側ではナリス一派といえる聖騎士候ルナンやリギア、リーナス伯爵にヴァレリウス、そしてアルゴス滞在中の勇猛ベック公等々の新顔が活躍する。
舞台も辺境の地を離れ文明圏へ。
物語の雰囲気も一気に変わり、第二幕が幕を開けたのだな、と感じさせる。
実際自分が<グイン・サーガ>を面白く感じたのは、この「陰謀篇」に入ってから。
随分と長いことナリスが好きになれなかったのだけれども、結果的には作品中で(グインを除けば)一番興味惹かれるキャラクターになっていた。
…しかし本書を読んでいる時に、作者である栗本薫の訃報を聞いた。
本編126巻を越えて未だ終幕には程遠い一大サーガが、これで決して大団円を迎えることがなくなったと思うとやり切れない想いだ。
「物語は本来、永遠に続かなければならぬ」とは栗本薫の名言だが、それは物語を未完のままにしておくという意味では決してなかったはずなのだが…。