『幼年期の終わり』 アーサー・C・クラーク
2009年 08月 18日

それまでクラークは『2001年宇宙の旅』をはじめ二、三作しか読んだことがなかったので、理屈っぽくて読みにくい作品を書く人だというイメージがあったのだが、この本は読み始めてすぐに惹きつけられた。
突如として地球上空に巨大な宇宙船が飛来する、という冒頭部分が視覚的で迫力があり、しかも宇宙人が地球に攻めてきた、といった薄っぺらいストーリーにはなっていないことも良かった。
人類を見守ってきた大いなる存在、その正体、その目的・・・
謎解きも二転三転というか、こちらの予想を覆す展開に、ただただ圧倒されるばかりだった。
映画『2001年宇宙の旅』の企画当初、当然のようにこの作品が下敷きとされた訳だが、観客を突き放した感のある『2001年』に比べ、こちらの作品の方が遥かに受け入れやすい反面、なまじ大いなる存在と人類とのコミュニケーションが成り立つ分、かえってその内面の推し量りにくさ、深さ――人類との隔たりの大きさを感じさせる。
今回は以前読んだハヤカワSF文庫ではなく、光文社から出ている古典新訳文庫での再読。
これは単なる新訳ではなく、改稿版の本邦初訳ということになる。といっても序章にあたる部分が若干アップ・トゥ・デートされている以外は、ほぼ旧版そのまま。このあたりは好みの問題か。

今までは単純に受け止めていた題名にも、様々な意味が込められていることにも気付かされた。
これまでにも何度か映画化の話が持ち上がっては消えているが、技術的にはこの作品での未来社会や異世界をスクリーン上に描きだすことは必ずしも不可能ではなくなったとは思うものの(冒頭部分に限って言えば、『インデペンデンス・デイ』が”近い”ビジュアル・イメージを既に提供している)、この作品の肝、”心”を表現した納得出来るシナリオを書き、そして説得力ある演出を行うことが出来る才能は果たしているだろうか。

インデペンデンス・デイは劇場公開当時から絶賛されていました。 映画宣伝のCMで何度も見て、映画紹介番組や情報番組でも何度も見て、これだけ期待したのだから、実際に見れば、たいし...... more