
幼い頃に両親を亡くし、伯父に引き取られて美しく成長した宮本音禰。
そんな彼女に、遠縁の老人からの莫大な遺産相続の話が持ち上がる。
だがそれには、見ず知らずの謎の青年・高頭俊作との結婚が条件だった。
だが八方手を尽くしてようやく件の青年の消息が掴めた矢先、何者かによって俊作は殺されてしまう。
これによって遺言の条件が変わり、他の縁者を含めて均等に分割されることになり、音禰の周囲には一癖も二癖もある連中が集まり始める。
そして連続する殺人事件。
一人が死ぬことによって残った者への分配額は増えていくのだが、はたして殺人犯の真の目的は…?
金田一耕助の出番が少なめだが、それはヒロインが回想する手記、という手法をとっているせいだろう。
彼女の前に姿を見せていない時の金田一が、どこで何をしていたかは読者にも伏せられているので、その分活躍ぶりが際立って見える。
作品中では自殺者を含めてかなりの数の犠牲者が出ているが、それでも金田一に頼りなさを感じず、むしろ超人性を感じさせるのはそんなところにも理由がありそうだ。
ヒロインといえば、”超”箱入り娘、深層の令嬢といった趣の音禰だが、いきなり純潔を奪われ、”悪党”と呼ぶその男と逃避行を重ね、その挙句にドンドンと男に惹かれていくという転落ぶりを見せるのだが、これが終盤では純愛モノへと変貌し、仕舞いにはハッピーエンドを迎えるのだからわからないものだ。
美貌のヒロインが結婚前提の遺産相続問題に巻き込まれ、周囲で次々と殺人事件が起きるというのは『犬神家の一族』にちょっと似ているが、ヒロインの造形を含めてまるで異なる展開となるのは流石である。