賢妻として名高い”山内一豊の妻”――この作品では「千枝」という名前――を主人公にした、作者お得意の歴史ミステリーの連作短編集。
山内一豊の出世の影には奥さんの内助の功があった、というのは定説になっていますが、この作品では織田信長、豊臣秀吉、徳川家康それぞれに仕えている際に身辺で不思議な事件が起こり、それを「千枝」が見事に解決。
ただしその全てを夫の手柄としたことから、とんとん拍子に出世していく、というパターンで展開されます。

一豊自身は至って凡庸な人物として描かれているので、前田利家や浅野長政、蜂須賀正勝、竹中重治、黒田官兵衛、石田三成、加藤清正、福島正則、片桐且元ら側近たちは一豊をバカにしたり呆れたりもしているのですが、当人はどこ吹く風。
また秀吉も家康も、一豊の奥さんのことには気付いているようで、それを承知で他の家臣たちとの駆け引きの道具としても一豊を重く用いているようです。
また、毎回毎回「千枝」が閃くのは一豊と褥を共にしている最中、というのが何とも艶っぽいですが。
ただ、犯人の意外性は兎も角、手掛かりや推理なしで、その光景が「見えて」解決、というのはミステリー物としては些か反則な気も。
なお「山内一豊」ですが、うちのパソコンでも「やまのうちかずとよ」で変換されますけど、本当は「やまうちかつとよ」が正しいのだとか。へー、初めて知りました。
また奥さんの名前も「千代」が一般的らしいのですが、それを裏付ける資料はないんだそうです。