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『富士山頂』 新田次郎

『富士山頂』 新田次郎_e0033570_20474792.jpg新田次郎は実際に気象庁の職員として、富士山頂気象レーダーの建設に携わっていたという経歴の持ち主。
ということはこの作品、フィクションの体裁を取りながらも半ば実録小説ということになるのかも知れない。
主人公はプロジェクトの中心となる人物であり、公務員でありながら作家との二足の草鞋を履いているという設定そのものが、作者自身を投影したものなのだろう。

過酷な環境の中で、国家的プロジェクトに邁進する作業員たち。次々と襲いかかる困難を乗り越え、遂に大事業は達成される。
まるでNHKで放送されていた『プロジェクトX』の世界だが、実際に第一回放送分で取り上げられたのがこの富士山レーダー設置作業だったそうだ。

しかしそれ以上に印象に残ったのが、予算を獲得するまでの攻防や、プロジェクトを推進していく上での他の部署との軋轢などの、所謂”お役所的体質”に関する件と、レーダーの建設作業の受注を狙うメーカー同士の鍔迫り合いといった面。
それは決して『プロジェクトX』的美談では語られることのない姿。
しかしこの大事業は、こういった醜い部分を内包しながら成し遂げられたのである。
by odin2099 | 2010-01-28 20:48 | | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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