『そして誰かいなくなった』 夏樹静子
2010年 03月 09日
アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』との類似性から、皆はオーナーのたちの悪い冗談だと思うのだが、翌朝乗客の一人が死体で発見され、彼の干支を示した置物も姿を消すのだった・・・。
密室を舞台に次々と起こる殺人事件。犯人はこの中にいる・・・?!
――というパターンは正に『そして誰もいなくなった』と同工異曲で、その題名から当然のようにパロディ物かと思いながら読み始めたのだが然に非ず、クリスティー作品を下敷きにしながらも更に捻りを加えた内容になっているので、原典を知っている読者も充分楽しめる。というより、作中で『そして誰もいなくなった』のネタバレをしているので、未読の方は先にそちらを読んでおいたほうが良いだろう。
「誰もいなくなった」ではなく、「誰かいなくなった」。
いなくなるのは「誰」なのか。
これを深読みしすぎると作者のミスリードの罠に陥りそうだが、確かに意外な結末が待っていて、薄々感づいてはいたものの最後はちょいと驚かされた。
ただ色々と伏線も鏤められているものの、ややアンフェアかなと思う部分も無きにしも非ずで、ネタバレになってしまうので詳細は伏せるが、そのクライマックスの展開はクリスティーの別作品を連想させる。
ということは、作者のクリスティーに対する本歌取りというか、換骨奪胎の試みは成功しているということになるだろう。
ところでこの作品、10年以上前にテレビドラマになっている由。
この内容を映像でどう表現しているのか、かなり気になる。