『黒髪の太刀/戦国姫武者列伝』 東郷隆
2010年 11月 01日

では彼女たちがそれぞれの作品の主人公なのかというとそうではなく、第三者の視点で語られているのが特徴。
その分彼女たちの内面描写がないので、短編と言う以上に内容が薄く感じられてしまうのが残念。
また巴御前だけ時代が違っているので、他の作品と並べてみると些かバランスが悪いようにも感じられるが、内容そのものは同系列なので読んでいる分には違和感は覚えない。
巴御前を別格にすると、この中で知っていたのは最近では”瀬戸内のジャンヌ・ダルク”と称されているらしい大祝鶴姫と、何かと話題の『のぼうの城』のヒロイン・甲斐姫ぐらい。
鶴姫に関しては実在したとする説と、伝承上の人物だとする説の両方があるようだが、今の時代に受けそうなヒロイン像だと思う。
甲斐姫はこの作品だと実に凡庸で精彩を欠いており、むしろ興味深いのは石田三成の方。戦下手とされる従来の三成像とは異なり、ここでは秀吉の命による水攻めに、内心では異議を唱えながらも実直に遂行する人物として描かれているのである。
常山御前の鶴姫は地元では知られた存在のようだが、毛利やら小早川やら宇喜多やら中国地方の諸将の勢力争いの経緯には疎いために全く知らなかった。これはゆきの方も同じで、こういう一般的にはあまり知られていない人物は史料に頼ることが出来ないため、生かすも殺すも作者の腕一つということになろうか。