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『宇宙戦艦ヤマト復活篇』 西﨑義展:原案/馬里邑れい:作

コンプリートボックス豪華11特典の内の一つで、「アナザーワールドまで踏み込んだサイドストーリーを書き下ろした未発表のオリジナル小説」と紹介されております。

従来の「ヤマト」では、著者名が「構成:西崎義展」とクレジットされている朝日ソノラマの一連のシリーズや、若桜木虔が執筆した集英社コバルト文庫版をはじめ何種類かノベライズが出てましたが、今回の『復活篇』では何もなし。
その代わりに出来たのがこの特典ノベライズということなんでしょう。

『宇宙戦艦ヤマト復活篇』 西﨑義展:原案/馬里邑れい:作_e0033570_21101736.jpgお話は当然のように映画版に沿ったものになっています。
ただ所々に膨らましがあり、雪の出番も増えています。
例えば古代進が貨物船の船長になっている理由や、真田が雪を移民船団のリーダーに指名するシーン、娘の美雪や佐渡先生と食事をするシーン、夫の進に対する内面を吐露するシーンなど、キャラクターを掘り下げようとする工夫が感じられますし、古代父子の葛藤など映画本編では舌足らずな部分も、このノベライズでは得心が行くようになっています。

また旧作への目配せも多々あり、ガミラスや白色彗星、暗黒星団帝国、ボラー連邦、ディンギル帝国等々とのデータと照合した結果、移民船団を攻撃してきた艦隊を”未知の敵”と認識する件があったり、雪を守ってやれなかった進が「雪を必ず幸せにしてやれよ」という親友・島大介の最後の言葉を思い出したり、沖田艦長の行動に想いを馳せたりと、「ヤマト」の続編を意識した作りになっているのも良いと思います。

本編に出て来なかった旧作のキャラクターにも触れていて、銀河の中心部で起こった大きな戦乱(その際にSUSが勢力を拡大することになったのだろう)の結果、盟友デスラーは消息不明だとか、小林の宇宙戦士訓練学校時代の教官が加藤四郎だとか、名前だけでも出てくると嬉しいものです。

SUSは当初、地球が加わることに賛成していたものの、地球とアマールが一体となって強大化してしまうことを懸念して、一転して地球を排斥しようとしているなど、SUSとアマール、そして地球との関係を解説してくれるなど本編を補完する意味では価値のある作品になっていますが、シナリオにあって本編では削られている部分は兎も角として、どこまでが製作サイドのオフィシャルな設定で、どこからが作者の独自の解釈なのかが分かりづらいのが難でもあります。
例えばイリヤ女王が古代に恋心を抱いている(!)などという件は、少々行き過ぎではないかと思えますし。

また誤字や、作者の勘違いか、或いは途中で変更や修正をした後でのケアレスミスから、前後で文章が繋がらない箇所が見受けられますので、やはりここはしっかりと校正をして頂きたいところ。

ところでこのノベライズの結末は、公開された映画とは異なります。
公開されなかった、所謂アナザー・エンディング版に準拠しているようで、SUS大要塞を葬ったものの、地球はブラックホールに飲み込まれてしまい、最後の移民たちを乗せてヤマトが旅立つところでエンド。
そして「さらば地球よ 緑の星よ 花咲く丘よ 鳥鳴く森よ――」と、幻の3コーラスめの主題歌歌詞に準じた文章で締めくくられるのです。

ということは、現在製作中の『復活篇ディレクターズカット版』も、こちらのエンディングが採用される可能性がありますね。
当初の構想にあったのはこちらだったものの、試写会でのファンの反響から差し替えたという経緯があるようなので、「ディレクターズカット」と銘打つ以上、本来やりたかったように作り変えるのはある意味で当然。
DVDの特典映像からアナザー・エンディングを削除したのも頷けるというものです。
こちらが採用されれば、波動砲の6連発がなくなる代わりに、折原真帆が死なずに済む、ということにもなるのですが、さて・・・?
by odin2099 | 2010-11-04 21:10 | | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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