『宇宙戦艦ムサシ』 若桜木虔
2011年 01月 04日
征服者であるパラノア星人たちは地球人の女性と交わり、不思議な能力を秘めた混血児パンテラが生まれたが、程なくパラノア星人たちは故郷へと帰り、残されたパンテラたちは地球人からの迫害の対象となっていた。
テレポートの能力を持つ乃木猛、テレキネシスの持ち主の有馬悠樹、そして遠隔透視の出来る鵬麗の3人のパンテラの少年少女は、その能力を使ってサルベージの仕事をして生活していたが、ある日の作業中に大竜巻に巻き込まれてしまう。その最中に彼らは、突如浮上してきた巨大な戦艦に遭遇、それは旧日本海軍の戦艦武蔵だった。
彼らはこの武蔵を宇宙船として改造し、パラノア帝国へと旅立つことを夢見るのだが・・・。

戦艦大和が宇宙戦艦ヤマトになったのだから、と、今度は戦艦武蔵を宇宙戦艦ムサシにしてしまえ。
誰でも考えそうなことで、パロディを含めた同人誌レベルではこの手の作品はごまんとあると思われるが、実際には二の足を踏むようで、おそらく商業レベルにまで持って行ったのはこの作品のみ。凄いといっちゃあ凄いもんである。
著者は集英社コバルト文庫で、『さらば宇宙戦艦ヤマト』を皮切りに「宇宙戦艦ヤマト」シリーズのノベライズを次々と発表した人で、他にもこの作品を出版した文化出版局ポケットメイツを含めて『銀河鉄道999』、『海のトリトン』、『宇宙空母ブルーノア』、『1000年女王』、『ムーの白鯨』、『サイボーグ009/超銀河伝説』、『マルコ・ポーロの冒険』、『円卓の騎士物語 燃えろアーサー』、『宇宙戦士バルディオス』などで、この手のジャンルで第一人者となった人。当然、この作品も「宇宙戦艦ヤマト」を意識して執筆している。
ただお話の方は「ヤマト」とは全然別物で、スケールも小さい。
日本改め<ファー・イースト>の大企業にムサシ改造を依頼したものの、ムサシを我が物にしようとする企業側とパンテラの少年たちとの虚々実々の駆け引きが行われたり、途中でパラノア帝国に反乱が起こって帝国が崩壊してしまったり、背景で物語は動いてはいくのだが、肝心の主人公たちはそれほど活躍しないまま、最後の最後にムサシの改造が済んで飛び立つところで終わり。つまりは壮大なプロローグ部分のみなのだ。
戦国時代となった宇宙を舞台に「ゆくゆくはSF版『太閤記』のようにしたい」という構想もあったようだが、結局は実現しないままに終わったが、それが良かったのか悪かったのか。
しかし偶然だろうけれど『オーディーン/光子帆船スターライト』や『YAMATO2520』にちょっと雰囲気が似てる気がするのは・・・考え過ぎだろうね、きっと。