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琉球ロマネスク『テンペスト』

書店で並んでいるハードカバーをチラホラ捲りながら、何となく気になっていた池上永一の『テンペスト』。
文庫になったら読もうかな、と漠然と考え、実際に文庫になったのを知った時に揃え始めていたものの、結局取り掛かる前に観て来ちゃいました、舞台版。

幕末の頃の琉球を舞台に、男と偽って王宮で働く女性と、薩摩藩士の青年との運命的な恋や、王宮に渦巻く陰謀、彼女の秘密を握る者たちの魔の手、そして迫りくる欧米列強からの開国の要請・・・といった波乱万丈の大河ロマン、といった趣のお話ですが、なかなか熱の入った作品になっていました。

主演は沖縄出身の仲間由紀恵、共演は山本耕史、福士誠治、安田顕、伊阪達也、西岡德馬、生瀬勝久ら。
脚本は羽原大介、演出は堤幸彦。
上演は赤坂ACTシアターで、来月には新歌舞伎座でも上演予定とのことです。
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場内のアナウンス(「撮影・録音は禁止」「携帯電話の電源を切れ」「客席での飲食はダメ」といったお馴染みのもの)が先ず”ウチナーグチ”で行われ、その後で所謂”日本語”で繰り返されるなど、上演前から雰囲気作りをしているのも面白いと思いました。

面白いと言えば、かなり大胆に映像を使っていること。
大荒れの海の様子や、龍が暴れまわる様などを、スクリーンや舞台の背景に投影し、言ってみればそれらをセットの一部として使う演出など、ちょっとどうなの?と思わないでもないですが、若い人にはアピールするものがあるでしょうねえ。

また背景としてだけでなく、役者のクローズアップにもこの映像を使ってるんですな。
生で演じられている舞台に事前に撮影された演技を絡めるとなると、流石にこりゃ邪道じゃねえか?と感じましたけど、インパクトはありますし、かなりの効果を上げているとは思います。

舞台というのは約束事と決まり事の上に成り立っている、という風に認識しているんですが、もうちょっと柔軟に考えても良いのかなあ。音楽(担当は見岳章)だって、生演奏じゃなくて録音されたものを使うのは別に珍しくないんだしねえ。
そうはいっても、ナレーション(野際陽子)も録音で流されるとちょっと興醒めだったりで、全体的に「舞台を見た」というよりも「(TV)ドラマを見た」気分ではありました(決して”映画”ではなく”ドラマ”)。

琉球ロマネスク『テンペスト』_e0033570_22281781.jpg上演時間は前半が80分、休憩20分を挟んで後半が90分、約3時間のお芝居ですが、原作は文庫本にして4冊分、ということで内容はかなり端折っているのだと思われます(余談ですが、前半より後半の方が長い芝居を初めて見たかも)。
登場人物も随分絞られ(西岡德馬なんか5役も兼ねているけど)、物語内の時間経過も今一つわかり辛く、おまけに「首里天加那志(しゅりてんがなし)」とか「聞得大君(きこえおおきみ)」とか「親雲上(ぺーちん)」などの聞きなれない単語(それぞれ「王」、「最高神官・王族神」、「中級官僚の称号」の意)が飛び交ったりで取っつき難い面はあるのですが、それでも幕末の琉球の置かれた立場への興味もあり、最後まで飽きずに見ることが出来ました。
結構笑えるシーンも多く、場内は爆笑の渦という局面(?)も何度かあったのですが、ただそれが時事ネタ中心の、本筋からは些か離れる部分ばかりだったのはあまり感心しませんけれど。

さてここで描かれた物語、どこまでが「実」で、どこからが「虚」なのかが非常に気になりますが、気になると言えばこの作品が7月からNHKBSプレミアムでドラマ化されることも気になります。
そちらの主演も仲間由紀恵。
舞台とは違ったどんな「真鶴」、そして「孫寧温」を見せてくれるでしょうか?

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by odin2099 | 2011-02-14 22:28 | 演劇 | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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