『陰陽師/醍醐ノ巻』 夢枕獏
2011年 06月 08日
「超人気シリーズ500万部突破!」
帯にはこれらの文字が躍っていますが、そういった大上段に構えた宣伝文句がそぐわないほど、相変わらず淡々とした、それでいて味わい深い小品揃いの短編集になっています。
通算ではシリーズ11弾ということになるようです。
己を凌ぐ笛の名手の出現に愕然となる博雅を描いた「笛吹き童子」、眠っていた夢の中で、様々な場所を旅したと語る老女の話「はるかなるもろこしまでも」、おぞましき姿に変貌した男は何故…「百足小僧」、天帝に命じられ月守りの役目を担った老人が、蝉丸の琵琶の音に惹かれるという「きがかり道人」他、「夜光杯の女」、「いたがり坊主」、「犬聖」、「白蛇伝」、「不言中納言」の全九篇を収録。
梅の枝先に月が引っ掛かって動かなくなったり、楊貴妃や玄宗皇帝、阿倍仲麻呂らの霊(?)が盃に宿ったり、震旦(=唐)から大天狗がやってきたり、と今までの「怪し」「妖し」「不可思議」とはちょっと趣の異なる題材があるのは、新たな切り口なのか、はたまたネタ切れの回避か…。
初期の頃とは作品全体の雰囲気も随分と異なり、晴明と博雅だけでなく準レギュラー級の登場人物も増えてきているが、それでも毎回読むのが楽しみ。
派手さはないが、細く長く続けて行って欲しいものである。