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『光の国から僕らのために/金城哲夫伝』

『光の国から僕らのために/金城哲夫伝』_e0033570_20185932.jpg――とくれば、その後に続くのは「来たぞわれらのウルトラマン」というフレーズ。
黎明期の円谷プロ(当時は円谷特技プロ)にあって、脚本のみならず今でいうシリーズ構成的役割をこなし、若くして鬼籍に入った金城哲夫を主人公にした劇団民藝の舞台を見てきました。

二幕物で休憩時間15分を含め上演時間2時間程度の作品で、1972年の沖縄、ラジオの生放送中に自衛隊を賛美するかのような発言を行い、大問題を起こしてしまうところから幕が開きます。

遡って1965年、「ウルトラQ」を製作中で既に次回作の準備を進めている円谷プロへ同郷の上原正三を招き入れる金城。
「ウルトラマン」のヒットで怪獣作家とのレッテルを貼られたことで違和感を覚える金城。
「ウルトラセブン」終了後、「マイティジャック」の失敗から斜陽の時代を迎える円谷プロ。
沖縄へ帰郷後に一度円谷プロに顔を出し「帰ってきたウルトラマン」を執筆するに至った経緯。
そして二幕では沖縄と本土の懸け橋になろうと奮闘し、沖縄海洋博にも携わったものの、その失敗から楽天的な性格は影を潜め、精神的に追い詰められ、アルコールに逃避し…といった逸話が「実話を元にしたフィクション」という形で綴られていきます。

『光の国から僕らのために/金城哲夫伝』_e0033570_20190874.jpgウルトラシリーズ作中からの引用も多く、例えば「ウルトラマン」33話「禁じられた言葉」でのメフィラス星人とハヤタ隊員とのやりとり、「ウルトラセブン」42話「ノンマルトの使者」の少年の台詞などを、沖縄と本土それに関わる自身の立ち位置に重ね合わせていたり、中でも「帰ってきたウルトラマン」11話「毒ガス怪獣出現」が大きくフィーチャーされているあたりに、作り手が安易にウルトラマンや金城哲夫を取り上げたのではなく、きちんとリサーチを行い脚本を読み込んだことが伺えて驚きました(「ウルトラマン」の主題歌やBGMも流れますが、「帰ってきたウルトラマン」のBGMも2曲、印象的に使われます)。
また作品としては、もう一人の主人公、金城哲夫と対極の存在として上原正三を取り上げ、結果的に彼を語り手として配置した構成の妙にも唸らされました。

劇場に足を運んだ観客の年齢層は高く、その大半は「ウルトラマン」にも「金城哲夫」にも関心がない、知識がないと思われますが、そういった人たちの胸にこの作品がどう響いたのか、非常に興味がありますね。
またウルトラシリーズのファンを自任されている方ならば、今後もし機会があれば一度はご覧になることをお勧めします。

作:畑澤聖悟、演出:丹野郁弓、出演:齊藤尊史、みやざこ夏穂、千葉茂則、岡山甫、桜井明美、友好珍獣ピグモンほか。
2016/2/20、紀伊國屋サザンシアターにて鑑賞。

【ひとこと】

上原正三が脚本を執筆した『走れ!ケー100』出演の件だけは年代が合わないのが残念。

撮影前に金城が亡くなり出演が叶わなかったかのように描かれているが、実際に死去したのは放送の翌々年。
お芝居のラストに持ってきたいが故の意図的な変更だろうと思いますが。


by odin2099 | 2016-02-22 06:18 | 演劇 | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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