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『赤穂浪士』(1961)

創立10周年を記念して東映オールスターキャストで作られた2時間半の大作。
原作は大佛次郎、大石内蔵助に片岡千恵蔵、脇坂淡路守に中村錦之助、堀部安兵衛に東千代之介、浅野内匠頭に大川橋蔵、立花左近に大河内傳次郎、清水一角に近衛十四郎、片岡源五右衛門に山形勲、堀田隼人に大友柳太朗、吉良上野介に月形龍之介、千坂兵部に市川右太衛門、監督は松田定次。

『赤穂浪士』(1961)_e0033570_22340707.jpg原作小説では堀田隼人が主人公だからなのか序盤では彼がメインを張っているが、やがて堀部安兵衛ら赤穂藩士が徐々に登場。
吉良上野介の苛めに悩む浅野内匠頭を励ます脇坂淡路守との友情を織り交ぜながら、遂に刃傷に及ぶまでを丁寧に描いて行く。
内匠頭切腹から上杉家家老・千坂兵部の紹介、そしてようやく大石内蔵助が登場するまでが約1時間。
赤穂城受け渡しの使者として脇坂淡路守が内蔵助と対面し、皆が去っていくところまでが1時間半ほど。
その後は遊興を経ての内蔵助の東下り。
立花左近の名を騙っての道中で何と本物が現れるというスリリングな場面があり、ようやく江戸入り。
ここまでが2時間。
概ね30分ごとに物語に区切りをつけ、全体的に長さをあまり感じさせない配慮がなされているようだ。

ただ有名な物語だから周知のことと判断されたのか、それとも東映としては1956年からの5年間という短期間に3度目のオールスターキャストによる「忠臣蔵」映画ということで差別化を図ったのか、有名ではあっても本筋にあまり関係しないエピソードを省いたり、あるいは取り入れたもののさらっと流す程度に留めたりということが目立ち、これ一本だけ見た場合には何となくわかりづらいものになっているように思える。

例えば序盤に出てくる畳替えのエピソードにしても、大騒ぎする場面はなく既に事後として処理されているので、事の重大さがわからないのではないだろうか。
堀田隼人の素性やその心情の移り変わりも釈然とせず、堀部安兵衛とも友情を結ぶまでには至っていないのは勿体ないし、浪士たちが脱落していく様も台詞で語られるのみ。

その一方で、討ち入りを決意した内蔵助が瑤泉院を訪ねる場面では、彼女は全てを悟って決して内蔵助を責めない、というのはパターン崩しで目新しいし、また吉良邸討ち入りのシーンも割とあっさりしていて、赤穂浪士たちが吉良を討ち取るシーンよりは、それと並行して挿入されている上杉綱憲と千坂兵部とのやり取りに力点が置かれているのも面白い。

斯様に「忠臣蔵」映画の決定版とは言えないだろうが、やはり豪華キャストの熱のこもった演技合戦は見応え十分である。
特にかつて山鹿門下で龍虎と称されていたという内蔵助と千坂兵部が、全編で唯一直接に対峙する場面。
知恵蔵と右太衛門は台詞なし。
互いのアップをカットバックし、その表情の変化だけで全てを語ってみせる。
今の日本映画では成立しない演出だろう。

by odin2099 | 2017-12-13 23:18 |  映画感想<ア行> | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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