原因不明の腹痛に悩まされるクロエは、肉体的には何の異常もないと診断されたことから精神分析医を訪ねることにする。訪れたポールという医師のカウンセリングを受けるうちに症状が改善され、やがてクロエとポールは恋に落ち、同居を始める。
そんなある日、クロエはポールと瓜二つの男に出会う。ルイというその男は、実はポールと双子で共に精神分析医だという。何故ポールは兄の存在を隠しているのか、その謎を探るべくクロエは偽名を使いルイの診察を受けることにする。
温厚なポールと違い、ルイは傲慢で支配的な男だが、やがてクロエはルイにも惹かれて行く。はたしてポールとルイの過去には一体何があったのか。
ジョイス・キャロル・オーツの短編小説を元に、フランソワ・オゾンが脚本・監督を務めたエロティック・サスペンスで、出演はマリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、ジャクリーン・ビセット、ミリアム・ボワイエ、ドミニク・レイモン。
原題は "L'Amant double"(米国版は"Double Lover")で、「2重螺旋の恋人」という邦題はかなり捻り過ぎの印象。
また紹介されている粗筋から想像したストーリーからはかなりかけ離れており、てっきり双子が入れ替わっているとか、あるいは双子に見せかけた一人二役のトリック劇、もしくは多重人格者を巡るミステリー物なのかと思いきや、そのような単純なものではなかった。
映画はクロエの主観で描かれていくが、フラッシュバックが多用されており、これが現実の映像なのかそれともクロエの夢や妄想を現したものなのか、意図的に混乱させようとしているので、素直に画面を追い続けて行くと十中八九、監督の罠に嵌る。
振り返れば最初のシーンから伏線は張られているのだが、なかなかそこには思い至らないだろう。
結局のところ双子はポールの方ではなく、クロエ自身。
母親の胎内にいた段階ではクロエは双子だったものの、成長過程でクロエの中に取り込まれ、その結果クロエの体内には双子の片割れが腫瘍という形で残っており、これが腹痛と精神疾患の原因だったということ。
何らかの形でこのことを知ったクロエが、罪悪感から妄想を生み出していた、ということになるのだろう。
もっともクライマックスではオカルト映画、ホラー映画まがいの描写もあることから、生まれなかった双子の怨念なりがクロエに作用してありもしない幻覚を見せていた、という解釈も出来なくもないのであるが…。