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『転校生<女子校版>』

『転校生<女子校版>』_e0033570_18092891.jpg夏休み明けと思しき学校の教室に、一人また一人と生徒が登校してくる。
彼女たちは昨日あったおかしな出来事、姉に子供が生まれたこと、それに課題図書に何を選んだのか等々、好き勝手に喋っている。
始業時間になったが、どうやら担任は休みのようだ。そして転校生がやってくることに。
しかし自己紹介を求められた彼女は、「今朝目覚めたらこの学校の生徒になっていた」と不思議なことを語りだした…。

舞台の上には机と椅子が並べられ、教室に見立てられている。
そして場面は、授業の合間の休み時間と昼休みへと変わってゆく。
相変わらず他愛のない彼女たちの話は続く。
授業のこと、部活のこと、進路のこと、友達の恋愛話etcetc。

中でも繰り返し話題に上るのが、一つは課題図書の件。
朝起きたら主人公が虫になっていたというカフカの「変身」や、不思議な転校生が現れる宮沢賢治の「風の又三郎」は再三話題になるが、もちろんこの作品の中心になる不思議な転校生に絡めてだろう。

もう一つは文化祭でのグループ発表のこと。
世界の高校生をテーマにニュースを集めているグループがいるのだが、そこでぶち当たるのが人種、性別、宗教などによる差別問題。ただ問題提起はされるものの、それを掘り下げることはしない。

そして放課後。
「明日も学校来れるかな」「朝起きたら元の学校の生徒だったら悲しい」という少女に、どうやら転校してしまうかもしれない一人の生徒が、一つ一つの席を「ここは〇〇の席」「ここは△△の席」、そして「ここがあなたの席」「ここが私の席」と噛みしめるように呟く。

平田オリザの戯曲を、「踊る大捜査線」などで知られる本広克行が演出。この二人の組み合わせというとももいろクローバーZが主演した「幕が上がる」が思い浮かぶが、前回公演はこの映画の公開や舞台版と前後して本広克行が担当している。

出演は「21世紀に羽ばたく21人の女優たち」としてオーディションで選ばれた愛わなび、天野はな、上野鈴華、小熊綸、金井美樹、川﨑珠莉、川嶋由莉、齋藤かなこ、榊原有那、指出瑞貴、里内伽奈、澤田美紀、田中真由、西村美紗、根矢涼香、羽瀬川なぎ、廣瀬詩映莉、藤谷理子、星野梨華、増澤璃凜子、桃月なしこ。
2019年8月17日~8月27日まで紀伊國屋ホールにて上演。

舞台上では同時多発的に生徒たちが喋りだし(座る位置によっては台詞が完全に重なって、会話の内容が殆ど聞き取れない場合もある)、誰か一人が中心に座り続けることはない。また会話だけで進行していくので劇的なことは何も起こらず、最後は「明日も学校に来れるよ、きっと」という締めくくり。彼女が転校に至った経緯も何も説明されない。

休憩なしの75分というタイトな作品で、正直言うと初見では不完全燃焼というか、狐につままれたようなモヤモヤ感が残ったのだが、何か麻薬のように引き付けられるものがあり、結局3回も足を運ぶことになった。今日もまたあの空間――”教室”に身を委ねたいという切望に憑りつかれている。

開場は開演時間の30分前。
出演者から「早めに会場入りして席についていた方が良い」という事前のアナウンスがあったが、これは入り口でチラシを渡す者が2名、そして物販コーナーに2名とそれぞれ出演者が配されるので(公演ごとに交代するシフト制らしい)、直接キャストに会えるという意味なのかと思っていたのだが、そうではなかった。

開演10分前には客席を通って生徒役の女優が舞台に上がり、やがてもう一人も上がり(”登校”し)、そこから既に芝居が始まっているのだった。
客入れの時点から演者が演技を始める「0場」というのが平田作品の特徴なのだそうだ。

ところが2回、3回と足を運ぶとそれだけではなかったことに気付く。
開場してすぐにロビーから客席へと何人かの生徒たちがウロウロ。客席内をうろつき廻ったり、ドアの影で読書をしていたり、客席に腰かけたり、通路の隅でスマホをいじっていたりと、各人が登校風景を演じているのだ。
観客も「彼女たちに声をかけない」というのが暗黙のお約束になっているのだが、中には話しかける輩もチラホラ。

それどころか会場内に留まらず、実は会場の外から芝居は始まっていた。
紀伊國屋ホールは紀伊國屋書店の4階奥にあるが、その手前は美術書のコーナー。階段を上ってきた彼女たちは普通に書店内を歩き回り、そして会場へと入っていくのだった。

開場の60分くらい前には発声練習をしたり、気合を入れてる彼女たちの掛け声がホールの外にも聞こえてくるのだが、一体彼女たちはいつから準備をしているのだろう。
1回目は最前列で見たこともあって、舞台と客席の一体感というか、現実と虚構世界の垣根をあまり感じずに作品世界へ入り込めるという不思議な体験だった。

今回の舞台、所謂”推し”であるところの、現役ナースにしてコスプレイヤーという二足の草鞋アイドル桃月なしこの初舞台というのが観賞動機。
正直言うとポジション的には彼女はセンターにいるものの、物語の進行上では大きな扱いとも言えず、また出番というか見せ場も多くはない。

また前述の通り物語としても消化不良気味で納得は出来はしなかったものの、彼女の頑張り、いや”彼女たち”の頑張りをもっと見守って行きたくなって、二度三度の観賞と相成った次第。
彼女以外にも気になる存在が何人か出来た。数年後、この21人の中から何人がブレイクしているだろうか。

”推し”のなしこたそには1回目2回目は物品コーナーで会え、3回目の観賞時は客席ですれ違った。
勝手にイメージしていたのとはちょっと違ったものの、やはり本物は可愛い。
そういえば3回目の時は、開演直前に客席に入ってきた人たちがいて、可愛らしいなと思っていたのだが、どうやら同じ事務所の川崎あや十味の二人だったそうで。やっぱり芸能人は違うな。また1回目2回目の時も何人かタレントさんがいた模様。
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  本人が書いた座席表(Twitterより)

【ひとりごと】
今回は初演となる<男子校版>と交互の上演。
こちらも気になったものの、種々の事情で断念。ライヴDVDなどが出ると嬉しいのだが、ないのだろうな。
(8/19、22、24に観賞)



by odin2099 | 2019-08-25 18:25 | 演劇 | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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