幼い頃に父を失い、今度は母をも失い孤児となったトールキン。
母の友人モーガン神父が後見人となり名門校へ入学したトールキンは、そこで3人の生涯の友と出会う。
彼らは秘密クラブを結成し、芸術で世界を変えようと息巻くのだった。
また時を同じくして美しく聡明な女性エディスと出会い恋に落ちるが、学業に悪影響を及ぼすと神父に交際を反対されてしまう。
何とか奨学生としてオックスフォードへ入学することが出来たトールキンが、言語の才能を認められた矢先に第一次世界大戦が勃発し、彼らは否応なく戦場へ送られてしまう。

『ホビットの冒険』や『指輪物語』で知られるJ・R・R・トールキンの半生を描いた物語で、脚本はデヴィッド・グリーソンとスティーヴン・ベレスフォードの共同、監督はドメ・カルコスキ。
出演はニコラス・ホルト、リリー・コリンズ、コルム・ミーニイ、デレク・ジャコビ、アンソニー・ボイル、パトリック・ギブソン、トム・グリン=カーニー、ハリー・ギルビー、アダム・ブレグマン、アルビー・マーバー、タイ・テナントら。
物語はトールキンが戦場で親友の行方を捜しているシーンから始まり、過去と現在(戦場)を交互に描く形で進行する。
この戦場でトールキンに付き従う従卒の名前が”サム”なのには、思わずニヤリとさせられる。
途中で病に倒れた彼を献身的に支えたのが、他ならぬこの”サム”だからだ。
そして物語の中心をなすのが、トールキンと3人の仲間たちとの友情。
最初は転入生に対するいじめで始まった彼らの交友だが、次第に兄弟以上の強い絆で結ばれてゆく。
これが”旅の仲間”の原型になったと言いたい訳だ。
それにエディスとの愛。
これまた後の”中つ国”の物語群へ大きく影響を及ぼしていくことになるのだが、どちらも映画では表面的に流している感じで、トールキンの苦悩や葛藤はあまり浮き上がってはこない。
映画全体もどちらかというと淡々とした印象を受ける。
端からファンタジー映画にはならないだろうとは思ったものの、トールキンの物語発想の原点であるとか、”中つ国”の物語と共通する何かの描写があるのかと期待していたが、それらは皆無。
映画『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』のビジュアルイメージを踏襲せず、肖りもしてないのはいっそ潔い。
集客面を考えれば、それらの作品群の延長線上にあると思わせた方が得策ではないかと愚考する。
またファンタジー作品を愛好する者としては『ナルニア国物語』の著者であるC・S・ルイスとの友誼などにも触れて欲しかったのだが(あるいは二人に師事するダイアナ・ウィン・ジョーンズが出てきたり…?)、枝葉を切り取ったのだろう、キリが良いところ――『ホビットの冒険』の執筆を始めたところで幕を下ろす。
年譜などと照らし合わせると、実際のトールキンの生涯とはかなりの差異が認められるが、特に遺族からクレームが付いたという話も聞かないので家族からは黙認、そしてフィクションというか”映画的嘘”と割り切って愉しめと言うことなのかもしれない。
個人的にはもう少し長閑というか牧歌的な作品を想像していたのだが、繰り返し挟まれる戦場の風景のせいで、何やら戦争映画を見た気分に。
ということで些か期待外れの一本であった。