「南総里見八犬伝」の映画化は角川春樹の念願だったそうだが、ストレートに映画化するのではなく大胆に脚色を施し、先ずは小説という形で発表しそれをベースに更に手を加えて作られたのがこの作品である。
そのため原作クレジットは滝沢馬琴ではなく、鎌田敏夫の小説「新・里見八犬伝」ということになっている。

主演は薬師丸ひろ子と真田広之。
角川春樹は当初からこの二人を念頭に置いていたようで、薬師丸ひろ子が学業優先で休業した際には製作を延期した(一時は薬師丸ひろ子の代わりに原田知世を主演に据えるという案も検討されたようだ)。
薬師丸ひろ子が演じるのは伏姫ではなく静姫というオリジナルキャラで、玉梓と蟇田素藤そして犬江親兵衛が母子だったり、犬飼現八が当初は玉梓側の悪役として登場するのもその改変の一例。
八犬士のメンバーは真田広之の親兵衛はじめ、犬山道節に千葉真一、犬村大角に寺田農、犬坂毛野に志穂美悦子、犬塚信乃に京本政樹、犬川荘助に福原拓也、犬田小文吾に苅谷俊介、そして犬飼現八に大葉健二と半数がJACで固められている。
対する妖怪軍団は玉梓の夏木マリを筆頭に、蟇田素藤が目黒祐樹、妖之介に萩原流行、幻人に汐路章、船虫にヨネヤマ・ママコ、悪四郎に浜田晃。そして義兄の信乃を想い、駆け落ちしようとするも彼をかばって命を落とし、死後に幻人によって利用されてしまう浜路を岡田奈々が演じる。
オリジナルキャラも多いし、原典準拠のキャラももはや別人のような扱いだ。
他に遠藤太津朗、殿山泰司、高柳良一、成田三樹夫、鈴木瑞穂、曽根晴美らが出演。
脚本は鎌田敏夫と深作欣二の連名で、監督は深作欣二。
近年は子息である深作健太が、この映画版をベースに更に新解釈を加え得た舞台版
「里見八犬伝」を演出し、再演を重ねている。
時代劇ではあるが劇伴や主題歌にロックを使い、特撮もふんだんに盛り込んだアクション大作。
むしろ異色なのは薬師丸ひろ子のアイドル映画としての側面で、全編通してカメラは徹底的に彼女(と相手役の真田広之)を捉えている。
と同時に彼女の”大人の女優”への脱皮が意図されているためか、親兵衛に襲われて胸元を肌蹴るシーンや入浴シーン、更には親兵衛との濃厚なラブシーン(殆ど首から上しか映らないが官能的な表情を見せている)が盛り込まれているのだが、サービスショットというほどではない上に必然性に乏しく、むしろ彼女のファンを減らす結果に繋がっているように思える。
もっともいつまでもアイドル人気に頼るわけにもいかないので、ファンの選別も意図していたようだが。
サービスショットということでいえば、母子でありながら蟇田素藤との妖艶なキスシーンや、入浴シーンで見事な裸身を公開した玉梓役の夏木マリを評価したい。
他にも志穂美悦子と萩原流行のやや淫靡な絡みなどがあり、薬師丸ひろ子のアイドル映画を見に来た層には若干の戸惑いがあったのではないかという気がする。
主人公は静姫と親兵衛ではあるが、原典の中心的人物である信乃は無視することが出来ず、また信乃と絡み、妖之介との因縁がある故に毛野の出番も増え、他の八犬士にもそれなりの見せ場を用意し、という具合に映画全体のバランスは必ずしも良くはないが、まずは一級の娯楽作品。
「幻魔大戦」に続くメッセージ映画だ、という角川春樹の言葉はあったが、出来上がった作品にそこまでの共通性は見られない。
京本政樹と萩原流行を知ったのはこの作品。二人とも色気があり、短い出番乍ら後の活躍に繋がる存在感を発揮している。
一方「JACから大抜擢された大型新人」と一部の書籍で紹介された大葉健二は、常に兜を被り鎧武者姿なのでさほどその活躍が愉しめないのは残念。
しかしJACで十年以上活躍し、「バトルフィーバーJ」「電子戦隊デンジマン」「宇宙刑事ギャバン」で主役を張った大葉健二を「新人」呼ばわりとは…。