ソフト化にあたって
「ザ・クライアント 依頼人」と改題されている。

シングルマザーの母親と暮らすマークとリッキーの兄弟はある日、森の中で自殺しようとしていた男と出くわす。
その男はマフィアに雇われた弁護士で、組織の重大な秘密を握っているために逃げ回っていたのだが、観念して死ぬ直前にマークはその秘密を明かされ、そして一部始終を目撃したリッキーはそのショックから昏睡状態に陥ってしまう。
死体発見者となったマークだったが、聞かされた秘密については黙っていた。だが警察もマフィアもマークの証言を疑い、野心家の検事フォルトリッグもFBIを率いて乗り出してきた。
身の危険を感じたマークは、偶然飛び込んだ事務所で弁護士のレジー・ラブと出会い、彼女はマークが持っていた1ドル札で彼の弁護を引き受けることになる。
クライマックスからラストまで改変ならぬ”改悪”してしまった
「ザ・ファーム/法律事務所」、原作の筋を追うだけで精一杯だった
「ペリカン文書」に続いてのジョン・グリシャムのベストセラー作品の映画化だが、適度に映画的アレンジを施しながら巧みにまとめ上げている。
グリシャム自身もお気に入りと見えて、映画化第4弾となる処女作
「評決のとき」制作にあたってはジョエル・シューマッカー監督以下、スタッフ陣も続投を求めたとか。
改変のポイントの一つは、シリーズキャラクターであるFBI長官デントン・ヴォイルズの出番をカットし(「ザ・ファーム/法律事務所」にも「ペリカン文書」にも登場している)、その役割をフォルトリッグ検事に一本化したこと。
これによって多少スケールダウンしてしまった感は否めないが、フォルトリッグを際立たせることに成功し、マークに立ちはだかる存在が明確になった。

もう一つは、レジーが原作では子供専門の弁護士であることをぼかしたこと。
レジーは離婚の際に子供たちを元の夫に奪われ、その結果アルコールに溺れ、現在はようやく立ち直っているという過去を持っているのだが、これでレジーのマークへの想いが、会えない自分の子供たちへ想いを投影したもの、と受け取れる。
やや単純化されてはいるものの、わかりやすく感情移入もしやすくなっている。
その結果、トム・クルーズという抜群の配役を生かせなかった「ザ・ファーム/法律事務所」、デンゼル・ワシントン、サム・シェパード、ジョン・リスゴーらを使いこなせなかった「ペリカン文書」と違い、スーザン・サランドンにトミー・リー・ジョーンズという、やや遅咲きの個性派名優の丁々発止のやり取りが愉しめ、四半世紀を経ても色褪せることのない傑作の誕生となった。
グリシャムが次回作をこのスタッフに託したのも頷けるというものだ。
【ひとこと】
不良少年マークを演じたブラッド・レンフロは若くして薬物の過剰摂取で亡くなったのだが、このキャラクターは案外”素”に近かったのかもしれない。