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『アルプススタンドのはしの方』(2020)

高校演劇の優秀作を映画化したもので、高校野球を題材にしながら出てくるのは球場のスタンドだけ。
グランドも選手も一切映らず、最小限の場内アナウンスと吹奏楽部の演奏、それに観客席にいる生徒や教師の声援や打球音だけで試合経過を説明するというのは斬新な試み。
更に上映時間は75分と短く、ほぼ全編が会話劇というのも異色だ。

『アルプススタンドのはしの方』(2020)_e0033570_20014090.jpg主な登場人物は4人。
演劇部員の安田あすはと田宮ひかる、元野球部員の藤野富士夫、それに成績優秀な帰宅部の宮下恵。
安田と田宮の二人はどこかギクシャクしていて、藤野は野球に対して未練タラタラ。
そして宮下は学年トップの座を、吹奏楽部の部長である久住智香に奪われたばかり、という状況。

安田と田宮の不自然な関係は、実は出場予定だった県大会を田宮の急病で棄権せざるを得なかったからで、安田はそれを何とか吹っ切ろうとしているが、田宮はそれを引きずったままで引け目を感じていたからだった。

藤野は友人でもあるエースの園田がプロにも注目されるほどの逸材なのに対し、自分はあくまでも控え投手に過ぎなかったために退部。
しかし下手ながらも努力の末にベンチ入りを果たした級友の矢野に対しては、複雑な想いを抱いている。

そして自分には友達もおらず何の取り柄もないと思っている宮下は、唯一頑張っていた勉強で結果を残せず、またしかも密かに想いを寄せていた園田と久住が付き合っていることを知って更にショックを受けていた。

彼、彼女たちに共通しているのは「しょうがない」という思い。
そして試合展開も強豪校を相手に敗色濃厚になっていく。
だがそんな中で少しずつ自分の想いを口にし出した彼、彼女らに微妙な変化が起き始める。
四人の想いが交差しだし、そして終盤、試合展開も熱を帯び、何かが起ころうとしていた。

原作は籔博晶/兵庫県立東播磨高校演劇部、脚本は奥村徹也、監督は城定秀夫。
出演は小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、平井珠生、山川琉華、目次立樹。

見終わってホッとしたのは、最後に全てが奇跡的に丸く収まってメデタシメデタシ、というご都合主義に陥ってはいなかったこと。
過去は過去、今は今、そして未来は未来。
それを否定したり、逆に美化するのでもなく、あるがままに受け入れ、そして「次」へと進んでいく。

劇中でも「青春ってなんだろう?」という台詞が出てくるが、これこそ「青春」。
ああ、こんな学生時代を送りたかったなあと素直に思った。
等身大の4人の演技も十二分に”魅せて”くれたので大満足だ。

難を言えば、舞台設定は夏の甲子園球場の一回戦のはずなのだが、ロケ地の関係で地方球場の地区予選にしか見えなかったこと。
そして高校野球を題材にした映画が、春夏共に大会が中止になてしまった年に製作・公開されたのが皮肉に感じられることだが、だからこそ今見るべき映画なのかもしれない。

【ひとりごと】
準主人公格の黒木ひかりの美少女ぶりが光る。
現在放送中の『ウルトラマンZ』のオオタ・ユカ隊員役とはまた違った存在感だ。



Tracked from いやいやえん at 2021-01-09 19:49
タイトル : アルプススタンドのはしの方
【概略】 夏の甲子園1回戦に出場している母校の応援のため、演劇部員の安田と田宮は野球のルールも知らずにスタンドにやって来た。そこに遅れて、元野球部員の藤野がやって来る。訳あって互いに妙に気を遣う安田と田宮。応援スタンドには帰宅部の宮下の姿もあった。成績優秀な宮下は吹奏楽部部長の久住に成績で学年1位の座を明け渡してしまったばかりだった。それぞれが思いを抱えながら、試合は1点を争う展開へと突入し...... more
by odin2099 | 2020-07-24 20:09 |  映画感想<ア行> | Trackback(1) | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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