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『氷の微笑』

なんとなく久しぶりに鑑賞。

この映画で描かれている一連の事件は、ニックの恋人でも会った心理学者ベスの仕業ということで一応の解決を見る。
だがラストシーンでの思わせぶりなショットが、真犯人はキャサリンであることを暗示しているし、実際に監督のバーホーヴェンもシャロン・ストーン自身も「犯人はキャサリン」だと語っている。
ただキャサリンが真犯人だとしても何か釈然としない思いが残るのは、その動機や目的がハッキリと見えてこないからだろう。

『氷の微笑』_e0033570_18584038.jpgおそらく実行犯はキャサリンではなく、彼女は黒幕というべきスタンスなのだろう。
彼女の周りには、何故か殺人経験者が集まってくる(あるいは彼女の方から近づいている)。
同性の恋人ロキシー、家族を皆殺しにしたヘイゼル、それに大学の同窓だったベス。

最初の犠牲者となった元ロックスターのボスは、キャサリンとは恋人同士ではなくただのセックスフレンドという間柄だったが、おそらく嫉妬したロキシーに殺された。
そしてキャサリンの愛を競う新たなライバルであるニックをも殺害しようしたものの、失敗して事故死を遂げる。

ベスは夫殺しの過去を内務監査局のニールセンに知られ、口封じで殺したのだと思う。
ただベスの夫殺し、及び学生時代の恩師殺しにはキャサリンが関与していた可能性も否定できない。
何らかの形でベスとキャサリンの関係(「一度だけ寝たがレズではない」とベスは語っているが)に気づき、それを非難したことがあったのかもしれない。

そしてニックの相棒ガス殺しはヘイゼル。
その場に居合わせたベスは何者かに呼び出されただけ。
あらかじめ完成したばかりの小説をキャサリンに見せられていたニックが、同じ状況だと早とちりしてベスを犯人だと勘違いしただけだ。
この時点でニックは、キャサリン以外の人物にコントロール出来るはずがないことに気づくべきだったのだが。
「ニックを愛していた」と今わの際に語ったベスが全て嘘をついていたとも思えないし、彼女の家の鍵が壊れていることはその前に明らかになっているので、誰かが忍び込んで証拠を捏造するのは容易いのだから。

キャサリンはこれらの殺人事件に、自らの手を染めることなく関与した。
自らに心酔させ、心理的に彼女たちを操り、事件を起こさせる。
手を下した本人からその時の状況を聞き、それをネタに小説をものしていたのである。
だからこそ(自分が殺害してないからこそ)心理テストもパスしたのだ。

ではキャサリンとニックの出会いは、故意だったのか偶然だったのか。
偶然だと考えるにはその後の展開が早すぎるし、用意周到過ぎる。
以前ニックが起こした発砲事件のことで彼に興味を抱き、何らかの方法で彼に近づくよう仕向けた、と考える方が納得がいく。
警察内部にはニールセンやベスのように彼女への協力者がいたのかもしれない。

キャサリンは最後にニックを殺すつもりだったのだろうか。
当初はそのつもりがあったのだろう。
ただキャサリンとニックは似た者同士で、そこに何らかの共感が生まれたのかもしれない。
「自分の愛する人は皆死んでしまう」「あなたを失いたくない」とニックの前で流した涙は、まんざら嘘ではなさそうだ。

ということで、答えは提示されているものの、そこへ至るまでの過程が辿れない。
謎は深まるばかりだ。
尤もバーホーヴェン監督は誰が犯人かわからなくするつもりは全くなく、観客からの「犯人がわからない」との声に戸惑いを見せていたそうだが。

ちなみにマイケル・ダグラスはキャサリン役にキム・ベイシンガーを希望したものの断られ、次にジュリア・ロバーツ、グレタ・スカッキ、メグ・ライアン、ミシェル・ファイファー、ジーナ・デイヴィス、キャスリーン・ターナー、エレン・バーキン、マリエル・ヘミングウェイ…とオファーするが全て拒否されたという。
またバーホーヴェン監督はデミ・ムーアを希望したらしいが、見てみたかったような、シャロン・ストーンで正解だったような…?

そういや『アントマン&ワスプ』でマイケル・ダグラスとミシェル・ファイファーは夫婦役だったが、この役をシャロン・ストーンが演じるという噂もあったなあ。

<過去記事>


by odin2099 | 2020-10-12 19:02 |  映画感想<カ行> | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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