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『野球少女』(2019)

天才野球少女と持て囃されてきたスインだったが、”女子”というだけで門戸を閉ざされ、プロ野球選手になろうとする夢は遠ざかる一方だった。
監督や母親からも、夢をあきらめ現実を見ろと忠告されてしまう。
しかし夢を決して諦めない彼女の姿勢に、初めは突き放していた新任のコーチ、ジンテが心を動かされる。
スインの長所を伸ばして短所をカバーしようと考えたジンテは特訓を開始し、何とか彼女にチャンスを与えようとする。
ジンテもまたプロを目指し、夢破れた過去があったのだ。
やがてジンテの友人であるスカウトの目に留まり、彼女は入団テストを受ける機会を掴んだ。

実話ベースのお話であるならば説得力も増すのだが、ヒロインにはモデルがいるとはいえ、フィクションということで多少点が辛くなる。
結末がある程度予想がつくからだ。
とはいえ、他人から何を言われようとも自分の意思を貫き通す彼女の精神的な強さには大いに心揺さぶられる。
例え自己中心的で、周囲への配慮に欠けるきらいがあったとしてもだ。

『野球少女』(2019)_e0033570_21131905.jpg惜しむらくはプレーのシーンが少ないこともあるが、彼女の凄さが今一つ伝わってこないこと。
20年ぶりの”女子の高校野球選手”ということだが、所属する野球部が創部して間もないことを考えると、彼女がチームの一員になれたのは彼女の実力だけじゃなく多分に”客寄せパンダ”な面があったであろうことは否めないし、彼女の栄光をたたえるトロフィーや賞状が映るシーンもあるものの、具体的に高校野球でどれだけの実績を残したのかが語られることはない。
監督やチームメイトたちとの関係もどこか余所余所しく見える。

本当に実力がありながらも”女性だから”プロになれないのか、それとも彼女自身の力では到底プロでは通用しないと判断されているのか、そこが曖昧なので今一つモヤモヤしたものが残る。
甲斐性がないながらも娘を応援し続ける父親には「お前が言うな」とツッコミたくなるし、一家を支えてるという自負から辛く当たる母親にも、それならばそもそも何故そこまで娘に自由にさせたんだ?という疑問が残ってしまう。

それでも一度は夢が閉ざされたものの、最後の最後に彼女の熱意が勝ち、プロとしてのスタートラインに立つことが出来た、というラストシーンは感動的である。
果たして彼女がプロの世界で活躍できるかというとかなり厳しいのだろうと想像はつくが、彼女に続く第二、第三の女性選手の誕生も予感させる結末は十分にハッピーエンドだと言えよう。

最後に、ストーリーの中に中途半端な恋愛要素を持ち込まなかったのも良かったと思う。
彼女のチームメイトに、今回唯一指名を受けて一足早くプロへ進むことになったジョンホという選手がいるのだが、スインとは幼馴染でリトルリーグの頃から一緒にプレーしてきて、切磋琢磨してきたという仲。
そしておそらくは彼女に恋愛感情を抱いていたと思われるのだが、最後まで彼女を見守るだけに留めた。

同じく、アイドルを目指している彼女の親友バングルも、最後まで適度な距離を保ったまま。
彼女もスインに刺激を受け、スインも彼女から刺激を貰ったはずだがお互いの領域に踏み込むことはなかった。

ドラマとして盛り上げるならば、ジョンホにしろバングルにしろいくらでも膨らませることは可能だったはずだし、またコーチのジンテにも描けるドラマはあった(離婚した妻と子供がいる)のだが、スインに焦点を当てるためだろうが敢えてそちらへ振らなかったのも好判断だったと思う。

主演のイ・ジュヨンは撮影時は20代後半だったはずだが、高校生の役としてさほど違和感は感じなかった。
ただ投球フォームだけは(全身が映るカットが殆どないこともあって)何かぎこちなさが残って残念に思えた。


Tracked from ふじき78の死屍累々映画.. at 2021-04-06 22:55
タイトル : 『野球少女』ユナイテッドシネマ豊洲3
◆『野球少女』ユナイテッドシネマ豊洲3 ▲色気がなくクールなところが百恵ちゃんっぽいぞ。 五つ星評価で【★★★エロい屑がいなくてよかった】 既に若くないのにトラウマを植え付けられた韓国映画に『ハン・ゴンジュ』があって、女子中学生の弱みに付け込んでクラスの大半の男子生徒が彼女をかわるがわる輪姦していた実際の事件を元にしていて、その小屋のゲロを吐きたくなるような絵面が今でも頭をよぎってしまう...... more
Commented by ふじき78 at 2021-04-06 22:44 x
プロの速球投手が160キロで、平均球速が140キロくらいらしいので(ぐぐった)、主人公の130キロと言うのはまずまず高校野球で記録を残せるくらいの素材なんじゃないか、と。でも、体格が小柄だったりすると玉が軽いから魔球を投げるしかない。
Commented by odin2099 at 2021-04-08 21:55
> ふじき78さん
実際の試合のシーンがあったら、もう少し説得力が増したんじゃないかなあと思ってる。
練習風景とテストシーンしかないので、そこで抑えた、打たれた、とやっても、彼女の凄さも弱点もなんか伝わってこなくて。
by odin2099 | 2021-03-29 21:24 |  映画感想<ヤ行> | Trackback(1) | Comments(2)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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