『仕立て屋の恋』(1989)
2021年 05月 25日

アリスはそのことをイールが知っているかどうかの探りを入れに来ていたのだ。
だが少しずつ心の裡を吐き出しているうちに、二人の関係はやがて思いもよらない展開を見せてゆく。
ジョルジュ・シムノンの小説をパトリス・ルコントが脚本・監督したサスペンス・タッチのラブストーリーで、出演はミシェル・ブラン、サンドリーヌ・ボネール、アンドレ・ウィルムス、リュック・デュイリエ。
音楽はマイケル・ナイマンで、ブラームスの「ピアノ四重奏曲第1番」をテーマとして使っている。
これも四半世紀ほど前に一度見ている作品なのだけれども、全く記憶になし。
その分先がどうなるのかを愉しみながら見ていたのだけれども、このラストはないわー。
こんな作品だったんだ。
ひょっとすると後味が悪くて記憶から消し去ったのかもしれない。
実際のところなんでエミールが少女を殺す羽目になったのかは明らかにされないのだが、アリスもアリスならイールもイールだ(ついでに刑事も明らかに偏見の持ち主で嫌悪感しかない)。
盲目的な愛ゆえに人の善意を悪用する身勝手なアリス。
人との接触を極力避けて周囲に壁を築いてきたものの、たった一度の恋によってその壁に亀裂が入り崩れ去り、全てを曝け出して自滅の道を歩んでしまったイール。
どちらも、当人はこの瞬間を幸せだと感じているのかもしれないが、結果として周囲も自分も誰一人幸せにはしていない。
更に言うならば、高跳びを決め込んだエミールも待っているのは破滅への一本道だ。
残された手紙と物的証拠により、最終的には刑事が真相を知ったであろうことが唯一の救いとは不条理で悲しすぎる。
儚げでかつ強か。
サンドリーヌ・ボネールは美しく、そして残酷だった。