『海底超特急 マリンエクスプレス』(1979)
2021年 06月 20日
計画の責任者や設計者、関係者らが招かれ試運転が行われることになったが、その車内には殺人者や殺人事件を追う私立探偵も乗り込んでいた、という日テレの「24時間テレビ」内で放送された手塚アニメの第二弾。
ロック、ヒゲオヤジ、ブラックジャック、写楽保介、サファイア、レオ、アトム、お茶の水博士、スカンク草井、アセチレン・ランプ、レッド公、ドン・ドラキュラ、丸首ブーン、ハム・エッグら手塚マンガのオールスター出演で、演出は手塚治虫と出崎哲の連名、そして手塚センセイは原作ではなく”原案”とクレジットされとります。
ヒゲオヤジが富田耕生、お茶の水博士には勝田久、アトムは清水マリ、そしてサファイアも太田淑子が演じているのはスターシステムならでは。

ちなみに画面上のタイトルは「マリン・エクスプレス」と「・」付き。
そして「海底超特急」の副題は付きません。
手塚センセイは「オリエント急行殺人事件」を意識したようなことを仰ってた記憶がありますが、列車内の陰謀劇という以外はこれといって共通項はなし。
むしろ同時期に劇場公開されてた「銀河鉄道999」への対抗意識の方が強かったんじゃないのかなあと思えてしまったのは下種の勘繰りでしょうか。
「男はな、例え99%駄目とわかっていても、最後まで賭けてみるもんだ」なんて台詞も出てくるんですけどねえ。
「24時間テレビ」内のスペシャルアニメは2時間枠なので、正味は1時間半ほど。
その割に詰め込み過ぎで、なんだか忙しないというか、逆に個々のシーンはあっさりし過ぎというか。
特に中盤以降、過去のムー大陸へとタイムスリップしてからのお話は余計だったように思います。
前半と後半でお話が分裂しているように感じられますし。
それよりもマリン・エクスプレス開発を巡っての日米双方の思惑、開発を強要された博士の複雑な思い、誰が何を企み、その真の目的は何か等々、そういった点をじっくり描けばただのアクション物だけではない、ミステリー・サスペンス物としての面白さもより出て来て、探偵であるヒゲオヤジを主人公にした意味もあろうというものなんですが…。
ところが手塚センセイとしてはムー大陸での冒険の方をメインにするつもりが、放送時間枠を大きくオーバーすることがわかったため、途中で後半部分を大幅に削る羽目になり、その結果としてバランスが悪くなってしまったようです。
自分としては不本意な作品だったようで、何度か劇場用作品としてリメイク(というよりシーンを追加して再構成するつもりだったのでしょう)すると発言してましたけど、結局実現しませんでした。
そういやこの作品の時代設定は西暦2002年で、製作時から凡そ20年後なのは流石に無謀だったかと。
まあいくらなんでも本気であと20年もすれば海底超特急が実現するとは考えていなかったでしょうが、あの頃は今よりももっと未来に夢を見ることが出来たし、あんまり未来にし過ぎると共感を得られないんじゃなかろうかという配慮もあったんでしょう。
ただ今この作品をリメイクするとしたら、西暦2100年を舞台に設定するのさえ、ちょっと無理があるなあと尻込みしそうですが。
ちなみにこのマリン・エクスプレスは、ロサンゼルスから東京までを40時間で結び、途中停車駅はポリネシアのマルケサス、メラネシアのサモア、ミクロネシアのポナペ島ということですが、実際にこんな列車が開発されたら乗ってみたいかというと…???
ずっと海底に閉じ込められているという圧迫感と閉塞感が強そうだし、途中で鮫に襲われたり海底火山が噴火したりと安全性に難がありそうだし、そもそも避難場所や脱出経路、非常口の類が確保されていないっぽいのでちょっと遠慮したいかな。
【ひとりごと】
ブラック・ジャックの声と言えば今は大塚明夫一択かもしれませんが、本作では野沢那智。
この作品の前の「100万年地球の旅 バンダーブック」と後の「火の鳥2772/愛のコスモゾーン」では伊武雅刀、そして更にその後の「鉄腕アトム(新)」のゲスト出演と「ブレーメン4/地獄の中の天使たち」では再び野沢那智、という具合に交代で演じてます。
手塚センセイとしてはどちらがよりイメージだったんですかね。