
手塚治虫の代表作『火の鳥』は、1978年に「黎明編」を原作として市川崑監督の手によって実写(とアニメの合成)作品として映画化されていますが、やはりそれでは物足りないという声も少なくなく、完全オリジナルのアニメーション作品が作られることになりました。
それがこの『火の鳥2772/愛のコスモゾーン』で、既存作品を原作に持たない、いわば『火の鳥』外伝といった趣きの内容になっています。
『宇宙戦艦ヤマト』、『銀河鉄道999』がヒットし、ファンの目が肥えてきた1980年の春休みに公開され、手塚アニメということで期待も大きかったはずですが、結果はあまり芳しくなかったようです。
かくいう自分も「つまんないなぁ」という感想を抱いて映画館を後にしたものでした。
手塚治虫自身は、『ピノキオ』を下敷きにしたシンプルなお話だと強調していましたが、逆にこれが難解なものを好む思春期の若者層にはそっぽを向かれた原因かもしれませんね。
それに個人的な印象を言えば、世間的には”手塚治虫は日本のアニメ界の第一人者”と捉えられていたかもしれませんが、アニメ人気を支える中心層の若者たちにとって”手塚治虫は既に過去の人”というイメージがあったように思います。
送り手側と受け手側の認識の差も苦戦の要因だったのでしょう。
それでも自分にとってこの作品は思い出の一本ですので、今回見直してみることにしました。

ただし自分が持っているのはビデオで発売されていたヴァージョンです。
劇場公開版は2時間強あった上映時間が、ビデオ収録版は90分程度。
なんでも手塚治虫自身が再編集したということですが、敢えて短くした理由はなんだったのでしょう?
これは推測ですが、TV放映される際に放送枠に合せてカットする必要が生じ、結果そのヴァージョンが何らかの事情で広く流通するようになったのではないかと思われます(僕自身はTV放映版を見ていないのですが、話を聞く限りでは殆ど同じ内容のように思えます)。
近年DVD化されたものはどうやら劇場公開版に戻っているようなので、是非もう一度完全な形で見てみたいものですが。
そんなわけで四半世紀経って再会した作品は、台詞や音楽がブツブツ途切れる可哀相な作品になっていました。
ただでさえ印象の悪い作品が、これでより楽しめるわけがありません。
賑やかで愉しいシーン、しんみりとさせるシーン、それに物語を語る上で重要な(?)シーン等々がいくつも抜け落ちているのも不思議で、これが手塚治虫が納得して再構成したものなのかどうかも疑問に感じます。
反面、劇場ではダラダラ長くて退屈してしまったのですが、これだけ切ればテンポアップしていて退屈さを感じる暇もありませんが。