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『ホドロフスキーのDUNE』(2013)

アレハンドロ・ホドロフスキー監督の、幻に終わった映画「デューン/砂の惑星」の製作過程を追いかけたドキュメンタリー映画。
「エル・トポ」、「ホーリー・マウンテン」、「サンタ・サングレ/聖なる血」といったホドロフスキー監督の作品は未見なのでどのような作品になっていたかは想像しにくいのだが、頓挫して40年近く経つのに未だに熱く語り掛ける姿に、作品への思い入れの深さ、強さは十二分に感じ取れる。

しかしコンセプトアートにメビウスやクリス・フォス、H・R・ギーガーを起用し、特撮はダグラス・トランブルを蹴ってダン・オバノンを抜擢、音楽はピンク・フロイドにマグマ、キャストにはサルバドール・ダリミック・ジャガー、ウド・キア、オーソン・ウェルズを配し、しかも監督はカルト作家として知られている人、おまけに低予算である訳もなく、しかも12時間とか20時間の映画にしたいと言い出した暁には大手スタジオが及び腰になるのも無理からぬ話。
むしろ企画段階で一蹴されず、クランクイン直前まで話が進んでいたことが驚きだ。

『ホドロフスキーのDUNE』(2013)_e0033570_21474196.jpg各界の異能を集めていく過程はドリームチーム結成へ向けての高揚感が感じられるし、この作品が予定通り完成して「スター・ウォーズ」に先んじて公開されていたら、「2001年宇宙の旅」に匹敵するほどの反響を呼び、今日のSF映画、特撮映画の流れは変わっていたかもしれないというのも、強ち映画ファン、映画研究者の間だけに存在する共通認識ではなさそうだ、というのも段々とわかってくる。
だがこれだけ灰汁の強いメンバーが揃えば、例えクランクインに漕ぎつけたとしても遠からず空中分解したのではないかという気もするのだが。

その後映画化権はラウレンティス父子に手に渡り、デビッド・リンチの手によって完成させられた。
ホドロフスキーは、リンチこそこの作品を唯一監督出来る男だと感じていたのでショックを受け、映画はスルーしようとしてたようだが、息子の説得もあって映画館へ。
ところが見ているうちに「これは失敗作だ」「プロデューサーが悪い」とわかって元気を取り戻したという件は、あまりに正直で思わず笑ってしまった。

ホドロフスキー監督の「デューン」は幻に終わったが、コンセプトデザイン等は出回っていたのでその後の数多くのSF映画に大きな影響を与えていたことが、「スター・ウォーズ」、「フラッシュ・ゴードン」、「エイリアン」、「ブレードランナー」、「マスターズ/超空の覇者」、「ターミネーター」、「コンタクト」、「マトリックス」といった作品群のフッテージを流用することで紹介されている。

膨大な資料は残されているため、ホドロフスキーは今からでも、自分の死後でもいいし、アニメーションでもいいから映画にすればいいと語る。
実際もし志のあるプロデューサーがいたら、今ならばネットでの配信ドラマなど時間的な制約の比較的少ないメディアもあることだし、チャレンジ出来る土壌は醸成されつつあるように思う。

ただ個人的に引っかかったのは、ホドロフスキー版が原作から大きく逸脱しているらしい点。
何かと批判されながらもリンチ版「デューン/砂の惑星」は、原作に準じたストーリー、台詞で構成されていると聞く。
仮にホドロフスキー版が完成したとしてファンは、「これはこれでアリだ」と受け止めるのか、それともリンチ版以上のバッシングを浴びるのか、さてどちらだろうか。


Tracked from ふじき78の死屍累々映画.. at 2021-08-31 14:39
タイトル : 『ホドロフスキーのDUNE』をHTC有楽町1で観て、ホド..
五つ星評価で【★★★★予告が誇大広告でないってのが凄い】   ホドロフスキー監督の作られなかった映画『DUNE』のスタッフやキャストとして名前が挙がってる面々が凄い。クリス・フォス、H・R・ギーガー、ダン・オバノン、オーソン・ウェルズ、ミック・ジャガー、ダリ。バラバラだ。 だが、ホドロフスキーという強力な舵取りの下、熱意をエネルギーに、この集団はスタジオが予算を建前に製作中止になるまで実にい...... more
Tracked from 或る日の出来事 at 2022-09-04 07:52
タイトル : 「ホドロフスキーのDUNE」
村上ショージの「ドゥーン」... more
Commented by ふじき78 at 2021-08-31 14:42 x
ホドロフスキーの傑作は日本公開順序で
1位「エル・トポ」
2位「ホーリー・マウンテン」
3位「サンタ・サングレ/聖なる血」
と思うので、1位は見てほしい。1位でこれはニッチもサッチもいかんと思ったら後は何も見なくてもOK。
Commented by odin2099 at 2021-08-31 20:51
> ふじき78さん

「エル・トポ」が一番のお勧めなのか。
粗筋読む限り凡そ自分向きの題材じゃなさそうだけど、今度見てみようかな。
Commented by ふじき78 at 2021-08-31 21:48 x
マカロニウェスタンと寺山修司の融合みたいな映画だから。ホドロフスキーが普通以上か普通以下かはともかくとして、普通でない事が分かります。
Commented by odin2099 at 2021-09-01 18:43
> ふじき78さん

寺山修司も見てないから色々と勉強しよう。
by odin2099 | 2021-08-29 21:50 |  映画感想<ハ行> | Trackback(2) | Comments(4)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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