『宇宙戦艦ヤマト/黎明篇~アクエリアス・アルゴリズム~』 高島雄哉
2021年 10月 17日
『宇宙戦艦ヤマト/完結編』と『宇宙戦艦ヤマト/復活篇』、そのミッシングリンクを繋ぐオフィシャル小説という触れ込みの作品だが、今のところは「公式が発表した二次創作小説」の域を出ない。

いくら公式が本書で語られたような設定、シチュエーション、キャラクターの動静、バックボーンを”正式”なものだと発信しようとも、多くのファンの認識としては映像で語られたもののみがオフィシャル、”正史”である、というものではないだろうか。
従って『復活篇・第二部』以降の映像化を断念し、且つ小説なり漫画なり他の媒体で”その後”を展開させるという公式発表でもなされない限りは「二次創作」だと捉えておく方が無難だろう。
実際に『完結編』と『復活篇』双方との矛盾点とまではいかないが、キャラクター造形を含めた若干の齟齬が気にはなっている。
物語の時代設定は西暦2215年、『復活篇』の5年前に設定されている。
何やら太陽系周辺で起こっているきな臭い動き、そしてようやく発見されたアクエリアス氷球に眠るヤマトの姿。
そこには『復活篇』には登場しなかった懐かしい顔が多く出てくる。
太田、相原、南部、北野、坂本、加藤、坂巻、仁科、幕之内、赤城、板東、雷電、京塚ミヤコ、藤堂平九郎に晶子、デスラー。
そして決して避けては通れない沖田艦長…。
また『復活篇』から前倒しで出てくるキャラクターもいる。
古代と大村の初めての出会いが描かれ、面識はないものの協力することになる折原真帆、桜井や上条、小林、天馬兄弟も顔を出す。
この物語で古代たちが対峙することになるのはディンギル帝国の残党たちだが、それを陰で操っているのはメッツラーだ。
何故古代は軍を去り、一介の貨物船の船長になっているのか。
その一方で雪はどうして軍に残り艦長にまで昇進しているのか。
そこに至る謎が少しずつ紐解かれ、大きくトーンの異なる『完結編』と『復活篇』を摺り寄せようという試みは一見成功しているようには思えるのだが、結局は両作品の間に横たわる断絶、隔絶を思えば所詮はファンサービスでしかないのかという虚しい思いへと結実する。
古代も雪も自分が知っている彼らとはかなり違う人物になっているように思えるし(どちらかというと『2199』などリメイク・シリーズのものに近いキャラクター設定になっているように感じられる)、『完結編』そしてこの『黎明篇』に登場しながらも『復活篇』に姿を見せない面々はどこで何をしていたのかというのが気になるし、逆に『復活篇』のキャラクターたちを無理に前倒しして出す必要はあったのかとも思えるし。
ともあれ物語の最後でヤマトの再建計画がスタート、この頃から既に国交を樹立していたアマール星への練習航海も始まったものの、まだ古代は貨物船の船長ではない。
ここまで始めた以上、『復活篇』の古代に、雪に、そして美雪にと繋がるよう、責任をもって物語を紡いでほしい。
そしてその先に仄かに見える『復活篇』の”その後”の物語群へも――。