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『陰陽師/水龍ノ巻』 夢枕獏

『陰陽師/水龍ノ巻』 夢枕獏_e0033570_19054277.jpg「安倍晴明ブームの原点、祝・35周年!」
「累計720万部『陰陽師』シリーズ第17巻!」
景気の良い惹句が並んでますが、そういう俗世間の喧騒とは無縁の世界、それがこの『陰陽師』のシリーズのように思います。

今回は全体的に源博雅が中心になっている話が多いように思います。
彼が持つ笛・葉二の来歴が明らかになったり、天賦の音楽の才を持つ彼への嫉妬心から彼を亡き者にしようとする者の存在や、それを命じられながらも彼の吹く笛の音に魅せられ手を下せなんだ刺客たちの話。

それに若き日の蝉丸の秘めたる恋を絡めたものもありますが、いずれも博雅は己が渦中の人物であるとは想像だにしていませんし、そもそもが自分がそういう対象になろうなどとは露にも思い至らないでしょう。
それが博雅の長所でありそして短所でもあり、流石の晴明も博雅の身を案じてしまいます。

「博雅よ、無垢は、時に罪だ……」とは思わず晴明の口をついて出てしまった本心でしょう。
どうでしょう。
そろそろこの物語にも終わりが近づいてきたように思うのですが……。

今回一篇だけ、晴明も博雅も蘆屋道満ですら登場しない作品があります。
『秘帖・陰陽師 赤死病の仮面』という、エドガー・アラン・ポー『赤き死の仮面』に材を採ったもので完全に別の世界を舞台にしています。
コロナ禍の昨今まことに臨場感あふれる作品となっているのですが、なればこそ巻頭もしくは巻末に、あくまでも『陰陽師』シリーズとは別物であると注釈をつけて収めて欲しかったところです。
あとがきに作品成立の経緯は記されているし、雑誌への掲載順にまとめてあるのはわかるのですが、従来のシリーズの中途にこの作品を挟むと、どうしても興味深さよりも違和感が先に立ってしまうもので。


by odin2099 | 2021-11-04 19:15 | | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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