シネマ歌舞伎『野田版 研辰の討たれ』(2007)
2021年 12月 05日

そこで辰次は一計を案じ、からくりを用いて市郎右衛門を脅かして留飲を下げようとするのですが、なんと驚きのあまり市郎右衛門はショック死、一転して辰次は市郎右衛門の二人の息子・九市郎と才次郎から親の仇と付け狙われる羽目に…。
木村錦花原作の歌舞伎狂言「研辰の討たれ(とぎたつのうたれ)」を、野田秀樹が新解釈で演出。
2001年に続き2005年に再演されたものを、<シネマ歌舞伎>として映画用に再構成したものです。
<シネマ歌舞伎>とは、歌舞伎座で上演された歌舞伎を高性能カメラで撮影し、臨場感をそのまま映画館で楽しめるのが売りです。
出演は守山辰次に勘九郎改め中村勘三郎(十八代目)、粟津奥方萩の江と姉娘およしに中村福助、妹娘おみねに中村扇雀、平井九市郎に市川染五郎(十代目松本幸四郎)、平井才次郎に中村勘太郎(現・六代目中村勘九郎)、小平権十郎とやじ馬の町人に中村獅童、宮田新左衛門とやじ馬の町人に中村七之助、からくり人形と番人番五郎に片岡亀蔵、職人市助に中村源左衛門、見伝内と宿屋番頭友七に坂東彌十郎、町田定助と僧良観に中村橋之助(現・八代目中村芝翫)、そして平井市郎右衛門に勘三郎の盟友・坂東三津五郎という顔触れ。
上映時間は97分で、全編ほぼ笑いっぱなしです(最後はちょっぴりしんみりとさせられますが)。
このタイトな時間の中で、勘三郎は舞台狭しと動き回りますし、それ以上に喋る喋る。
終幕近くは汗びっしょりになっています。
そしてそれに釣られて周りの役者さんたちも、実に愉しそうに跳ね回っています。
なんと義太夫さんまで舞台の中央に上がってきます。
台詞がよく聴き取れなかったり、音楽がついつい眠気を誘ったりというのが「歌舞伎あるある」だと思いますが、この作品は現代的なアレンジが施され、随所にアドリブも盛り込まれているようで飽きさせません。
突然「まんが日本昔ばなし」の主題歌が歌われたり、時事ネタを取り込んだり、獅童や染五郎、それに自分の息子である勘太郎のプライベートネタを放り込んできたり、古典芸能だと構えていると油断も隙もあったもんじゃありません。
正統な、伝統的な歌舞伎にはまだ若干の抵抗があるのですが、<スーパー歌舞伎>や現代的なアレンジの新作ならすんなりと楽しめそう。
生で勘三郎の芝居を見たかったなあとつくづく思います。
今回初めて<シネマ歌舞伎>を見ましたが、これなら生の舞台よりも手軽に見られますし、生の迫力には及ばないとはいえ、逆に役者さんたちのアップになった表情からは生とはまた違った臨場感を味わえますね。
邪道だと誹る人もいるでしょうが、これはこれでアリだと思います。