『ポゼッション』(1981)
2021年 12月 10日
一方マルクは息子のボブの学校の送り迎えの際に、アンナと瓜二つのヘレンという教師と出会う。
うーん、これはホラー映画といって良いのかな。
モンスター映画というほどクリーチャーは前面に出てこないし、かといってサイコ・サスペンスと呼ぶには即物的過ぎるし。
どうやらマルクは政府の仕事、それも諜報的な活動に従事していたらしいのだが、その夫の不在期間にアンナはハインリッヒと逢瀬を重ね、それでも満たされなかった彼女は妄想の中で化物を産み落とし、その快楽の虜になってしまったらしいのだ。
最初はタコだかイカだかのような姿だったクリーチャーは、最終的にはマルクそっくりの姿へと”成長”する。
ということは不条理劇ではあるものの、ある意味では純愛物だったとも言えるのかも。
妻に翻弄され、徐々に狂気に満たされてゆくマルクにサム・ニール。
ダミアン役に抜擢されるのはこの後だったか。
そして何かに憑りつかれたように平静から狂気へと一瞬にして変貌し、喚き散らし、自傷し、ゲロを吐き、クリーチャーとのセックスシーンに挑むなど迫真の演技を見せたのはイザベル・アジャーニ。
彼女の時にはあどけなさの残る可愛らしさと、一転して凄みを持った冷徹な美しさが辛うじてこの作品の質を保っているように思えるほど、美しくも悍ましい不可解な一篇。
それにしてもアンジェイ・ズラウスキー監督は、一体彼女にどのような演技指導を行ったのだろう。
【ひとこと】
アジャーニが二役で演じてるヘレンだが、彼女がアンナと瓜二つな理由は特に明かされない。
アンナだけが浮気をしているのではなく、マルクも心弱い存在だと印象付けるために設定されたキャラクターなのだろうか。
それとも何か回収されなかった伏線でもあったのか。
ボブの結末同様、投げ遣りな印象を受ける。