『最悪の予感/パンデミックとの戦い』 マイケル・ルイス
2021年 12月 19日
この本は、そのウィルスに戦いを挑んだ人々の記録である。
しかも輝かしい勝利の記録ではない、苦々しい敗戦の記録なのだ。
アメリカで症例が伝えられ始めた時、既に警鐘を鳴らしていた人はいた。
その後も感染者が増える度に、その一部の人々は危険度が増していることを訴え続け、また自らも行動に移し始めてもいた。
だが悲しいかな、その声は上に届かず、あるいは届いたものの軽視され無駄に時を過ごすことになる。
後手後手に回り、今日まで禍根を残しているのはご承知の通り。
そしてアメリカでも同じ状況である。
知識不足で状況が把握できないだけならまだ良い。
頭の固い人、過去にしがみつく人、周囲が見えない人、体面を気にする人、責任回避に終始する人、既得権益を守るのが最優先の人……
そしてそれらのTOPに君臨するのがトランプ大統領とあっては何をかいわんや。
本書の特徴の一つは、パンデミックの発生から筆を執っているのではないこと。
一見すると何の関係もなさそうな人たちの、何年も前の事柄から書き起こされている。
やがてパンデミックが現実のものとなった時、この人たちが個々に立ち上がり、やがて連携を取って事態に対処しようとするのである。
そのまるでフィクションのようなスリリングな運びには感心させられる。
だがフィクションと違うのは、如何にドリームチームとはいえ、その前に立ち塞がる障害は大きかったということ。
敵を倒す手段に近づきつつあるも、最大の障壁は本来味方であるべきわが組織だった、ということなのだ。
本書は既にユニバーサル・ピクチャーズが映画化権を入手しているとのこと。
実に映画向きの素材であることは間違いがない。
願わくば遠からぬうちに映画化が実現し、しかも逆転勝利を収めるハッピーエンドで締め括られるようになって欲しいということである。