『東京2020オリンピック/SIDE:B』(2022)
2022年 06月 27日
「SIDE:A」は記録的不入りとか言われてましたけど、良かったですね、上映中止にならなくて。
アスリート中心の「SIDE:A」とは違い、今度の「SIDE:B」は裏方さん中心の構成です。
「歴史は勝者によって作られる」じゃないですが、これが公式記録映画ということは「苦労はあったけどオリンピックはやって良かった」「成功した」という結論ありきということ。
裏方さんには組織委員会の人々も含まれるわけですから、大本営発表にも似た恐ろしさをも感じさせる内容になっていました。
しかし時系列順じゃないもんだから見難い見難い。
開催地が東京に決まった瞬間の映像を入れるなら、そこから初めて諸問題を取り上げる方が親切なんじゃないですかねえ。
東日本大震災の映像も挿入されてますし、マラソンの開催地が札幌に変更になった場面もありますが、そこに至る経緯には全く触れず終い。
開会式の演出担当者たちが入れ替えられた件はサラっと流し――意見がまとまらなかったから解散とだけ説明され、それ以外の理由はなし。ただ会見場における野村萬斎さんの眼光鋭い眼差しだけが、”何か”を雄弁に語っておりましたが――、オリンピック開催反対運動をしてる人々も「こういう人たちもいましたね」程度の扱い。
抗議デモの集団にモザイクをかけ、申し訳程度にカメラは通り過ぎます。
裏金賄賂問題の発覚もスルーですし、国立競技場のプランが二転三転し、公式エンブレムが盗作騒動で差し替えになった件も無視。
膨れ上がった予算に関しても何の説明もなしで、とにかく準備のためにせっせと働く人々をカメラは追いかけ、美談にしようとしております。
呆れるのは、メインフューチャーされてるのがバッハ会長と森会長だということ。
流石に森会長が女性蔑視発言で辞任する一連の流れは収められていますが、謝罪するとか撤回するとか言いつつまるで反省の色の見えない当人のインタビューや、オリンピック実現に至るまでの功績を褒め称える周囲の人のコメント等々、忖度してるというより明らかに弁護し(涙ぐむ人までいる始末)、彼の御仁が志半ばで現場を去らざるを得なかった悲劇の人扱いなのには参りました。
「ぼったくり男爵」と揶揄された方の数々のパフォーマンスも取り上げられてますが、これらも「とりあえずやってみただけ」というのが露骨に伝わってきてしまいます。
広島へ行ってみたり、抗議デモの集団に歩み寄って話しかけようとするのもポーズにしか見えず、本気で何かを変えよう、良くしようという想いは伝わってきませんでした。
そういえば、中国共産党の元高官から性被害を受けたと告発し、安否が気遣われていたテニス選手とコンタクトを取ったという話はどうなったんでしたっけ?
しかし両会長だけではなく、この映画には多くの見たくもない顔、見ていると不快感や憤りを感じる顔がいっぱい映りますが、何故か始動時の首相の顔が見当たりません。
別段見たくもない顔ではありますが、この全ての”元凶”とも言える人に対する言及がまるでなく、端から「いなかったこと」になっているのは不自然ではないでしょうか。
不自然と言えば画面に登場する人々のコメントもそうですし、会議や記者会見を切り取った映像もそうなんですが、発言が全部中途半端。
言葉尻を捉えているだけなので、その人が本当は何を言いたかったのか、その時にどういう議論が交わされ、どんな意見が飛び交ったのか、その結果どういう風にまとめられたのかが全く分かりません。
何かまずいことでもあり、意図的に削除したんじゃないかと勘繰りたくもなります。
今また札幌オリンピック招致に向けて政府は動き出してるようですが、少なくても今回の東京オリンピックにおける税金の無駄遣いに関しては説明責任があるはず。
そしてもし本気で次の招致を考えてるならば、今日本で冬季オリンピックを開催するメリットを国民に対してしっかりと説明すべきです。
東京オリンピックも、延期の後の強行開催を結局国民の多くに納得させることは出来なかった訳ですから。
これならいっそ招致疑惑から始まる一連の不祥事を時系列順に追いかけた「SIDE:C」を是非作って欲しいものです。
きっとそちらの方が面白くなるだろうし(腹が立つだけ?)、そちらをきちんと記録に残しておく方が将来の為になりそう。
何といっても今回の映画製作は「100年後の人類に届けること」が一番のコンセプトだそうですから。