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『黒い画集 ある遭難』(1961)

『黒い画集 ある遭難』(1961)_e0033570_19413526.jpg江田、岩瀬、浦橋の3人のパーティーが悪天候のため鹿島槍で遭難し、岩瀬が命を失った。
浦橋は亡き友人の追悼の想いを込め、山岳雑誌に詳細を記して寄稿した。
だが岩瀬の姉・真佐子は雑誌を読み、初心者の浦橋が無事で経験者の弟が亡くなったことに素朴な疑問を抱く。

江田を呼び出した真佐子は、弟の遭難現場に花を捧げたいと申し出、自分の代わりに従兄の槇田を同行して欲しいと頼み込む。
江田と槇田は山へと向かうが、槇田は浦橋の手記通りのスケジュールで登ることに固執する。

松本清張の小説を杉江敏男監督が映画化した作品で、脚本は石井輝男。
出演は伊藤久哉、土屋嘉男、児玉清、和田孝、天津敏、松下砂稚子、那智恵美子、塚田美子、香川京子
土屋嘉男が出演作の中でお気に入りとして挙げており、それが気になって今は無き銀座の並木座で見たのがかれこれ30年前。

この遭難ははたして事件か事故か。
それを解き明かしていくミステリー・サスペンスで、久しぶりに見てみたがやはり面白かった。
岩瀬の死体が発見されるところから始まり、前半は浦橋の手記に基づいて遭難に至るまでの過程が描かれるのだが、一見すると客観的に描かれているようで、実は浦橋の主観でしかないというのがミソだ。
随所に挟まれる江田と岩瀬の表情は、何やら描かれていない裏の部分があることを暗示させてくれる。

後半は江田と槇田の二人芝居となり、山のエキスパートである槇田が岩瀬の未熟さを強調し、江田の苦労を労いつつもベテランらしからぬ江田の行動をそれとなく指摘し、それによって元々表情に乏しかった江田が更に無表情になっていく様が見物。
この伊藤久哉と土屋嘉男の丁々発止のやり取りは全編通しての見どころの一つである。

遭難の真相はそれほど凄いこととも思えず、また最後は些かあっけなくも感じるのだが(原作小説とは少々異なるようだが)、この終わり方も悪くはない。
とにかくロケーションが素晴らしく、人間の心だけでなく自然の恐ろしさをも描いた作品である。

by odin2099 | 2022-08-29 19:56 |  映画感想<カ行> | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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