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『別れる決心』(2022)

『別れる決心』(2022)_e0033570_21081849.jpg男が山頂から転落死した。
事件を担当する刑事のヘジュンは、被害者の妻ソレを取り調べるうちに段々と彼女に惹かれていき、ソレもまたヘジュンへ特別な想いを抱いてゆく。
やがて事件は自殺ということで片が付き、これで全てが終ったかに思えたのだが、後日二人は意外な形で再会することになる。
ヘジュンは妻の勤務先のある街へ異動になったのだが、そこで殺人事件に遭遇する。
その被害者の妻として現れたのはソレだった。

ヘジュンは若くして功績を立てたエリートで、妻を大切にしている真面目な男。
そんな彼が悪女に魅せられ破滅してゆく、というファム・ファタール物なのかと思って見ていると一味違う。
騙されて嵌められて転落していくという大筋の流れは想定内なのだが、ソレもまた単純な悪女ではない。

ソレが最初に画面に登場した時、美人ではあるのだが地味だなという印象を受けた。
介護職に従事している普段の彼女の顔は、化粧っ気のない素朴なもの。
だがヘジュンと何度か邂逅を繰り返すうち、やがて異なる一面を見せるようになり、第二の事件が起こる頃には妖艶さを漂わせた凄みさえ感じさせる美女へと変貌するのだ。

それでいて彼女は、男を手玉に取るだけ悪女ではない。
求めて得られない”愛”を探し続ける悲しい女なのである。
場合によっては可愛らしいと表現しても良いかも知れない。
この作品は破滅する男を描くだけではなく、彼女自身も加害者であり被害者であるというポジションで描かれる。

どうしても片や自殺、片や他殺という二つの事件があり、そのどちらの容疑者でもある女性がはたして無実なのか、それとも片方もしくは双方の殺人者であるのかどうかという観点で見てしまいがちではあるが、そこに固執すると作品全体を見失ってしまう。
事件を解明しようとするヘジュンの視点だけでなく、ソレの視点でもう一回見た時に初めて作品の全貌に触れられるのではないだろうか。

ところで終盤でのヘジュンの妻のとある行動の意味がよくわからないのだが、結局は二人の親密さも見せかけにすぎなかったということなのだろうか。
それともソレと出会ったことで夫に疑念を抱くに至った、いわば彼女もまたソレの犠牲者だったということなのだろうか。


by odin2099 | 2023-02-24 21:09 |  映画感想<ワ行> | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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