
黄巾の乱から桃園の誓い、そして呂布の死までを描いた東映動画版『三国志』三部作の第一部。
1992年の1月に劇場公開されたが、製作中のニュースがアニメ誌に載っていたのは88年頃で、この作品が上映された頃には既に三作目も出来上がっていたはず。
完成してから3年ちょっとお蔵入りしていたことになるんじゃないかと思うけど、そこら辺の事情はわからない。
監督が勝間田具治で、脚本が笠原和夫、それに何故か監修として舛田利雄というのは『宇宙戦艦ヤマト』以来の東映のお守りみたいなものか。
それにキャラクターデザインと作画監督として角田紘一、美術監督として椋尾篁と窪田忠雄、それに音楽 担当が横山菁児というのは東映動画としてもオールスター級の布陣だ。
ヴォイスキャストにも力が入っていて、曹操孟徳の渡哲也、劉備玄徳のあおい輝彦をはじめ、張飛翼徳に石田太郎、関羽雲長に青野武、呂布に津嘉山正種、そして潘恵子、吉田理保子、中西妙子、永井一郎、家弓家正、滝口順平、中田浩二、八奈見乗児、野田圭一、坂口徹郎、矢田耕司、岸野一彦、堀川亮、塩屋翼、宮内幸平、田中康郎、田中亮一、銀河万丈、戸谷公次、佐藤正治、キートン山田、郷里大輔…と当時でも重鎮、大御所レベルが顔を揃え、ナレーターは金内吉男だから間違いのあろうはずがない。
当時の鑑賞メモを見ると、まず勝間田監督について「アニメの王道を行ってるけど、古臭さを感じるようになってきた」「本来この人は実写向きなんだろうけど既にアニメに染まり過ぎの感もあるし、このまま正当に評価されず仕舞いで終わりそう」と手厳しい。
「とにかくこれは素材が悪かった」
「”三国志”っていうのは面白いのだけれども、物語も登場人物も多様だから、まとめ易いとはとても言えない」
「ストーリーを分かりやすくしようとすると、ナレーションでの説明が増えてくるので人物が見えて来ず、人物に絞ると全体が見えてこない」
「例えば劉備とか孔明あたりをメインにすると、曹操あたりはともかく董卓だとか呂布だとか仲達なんかは無視されてしまうわけだし…」
「というわけで豪華なキャスティングの割には、ちょっと淋しい作品になってしまっている」
「それに140分は長いよなあ」
と誰かに読ませるために書いたものじゃないから、言いたい放題になっていた。
改めて見直してみると、劉備が徹底的に「善の人」「義の人」、平たく言えば「正義の味方」として扱われ、曹操も悪役じゃないものの「劉備と敵対する人」として描かれてるのが、様々な新解釈の『三国志(というより三国志演義か)』が世に出た今となっては古く感じられることや、どうしてもダイジェスト感が強い点に物足りなさを覚えてしまうのだが、逆に言うと初心者の入門編としてはなかなか良くまとめられているのでは、と思った。
欠点は登場人物が多く、それが漫画寄りではなくリアル志向でデザインされているため、誰が誰やらわかりにくいこと(髭面の人物も多いし、美女も類型的だ)。
ストーリーが大真面目でコミカルなシーンも皆無なため、漫画チックなデザインが最善とは思わないものの、もう少しデフォルメして各キャラクターを絵的にも立てる配慮は必要だったように思う。