『水深ゼロメートルから』(2024)
2024年 05月 13日
水の抜かれたプールには、野球部のグラウンドから飛んできた砂が堆積していた。
渋々掃除を始める二人に、一緒に来ていた同級生で水泳部部長のチヅル、更に水泳部を引退した3年生のユイも加わる。
メイクして可愛くなって、それでようやっと男と対等になれるというココロ。
小さい頃のように阿波踊りの”男踊り”が、性差を意識して踊れなくなったミク。
意識していた野球部のエースに負けたことで、水泳を辞めると言い出したチヅル。
そんなチヅルを見守る先輩のユイ。
物語は彼女たちの他愛のない会話だけで進んでいく。
『アルプススタンドのはしの方』に続く高校演劇リブート企画の第2弾として商業演劇として上演され、更に今回、山下敦弘監督によって実写映画化された。
原作・脚本は高校在学中に舞台版を執筆した中田夢花。
出演は濵尾咲綺、仲吉玲亜、清田みくり、花岡すみれ、三浦理奈、さとうほなみ。
濵尾咲綺、仲吉玲亜、花岡すみれの3人は、舞台版に続いての出演。
基本的に水のないプールだけで繰り広げられるあたりが、舞台劇らしいところか。
会話の内容は「女子高生あるある」なのだろうが、流石に理解も共感も出来なかった(特に憎まれ役となっている体育教師)。
だが見終わって、何かわかったような気になる必要はないのだろう。
ココロ、ミク、チヅルが親友同士ということもなく、かといって仲が悪い訳でもない、という距離感が好い。
親しくないからこそ飾らずにズバズバと本音を吐いたり、またどこか熱意のない他人行儀なやり取りになったりするあたりがリアルだ。
ユイに至ってはチヅル以外とは面識がないようなので、余計傍観者というか、第三者視点での関りになってくる。
また教師も教師で、人間だから色々と抱えているだろうし、良かれと思って考えてもいるのだろうが、一線を越えた途端に生徒に八つ当たりをしてしまうのは大人げない。
ただそれも別の意味でリアルさを感じる。
そして原作にはいないリンカというキャラクターを配したことが、4人を点描する上で効いている。
『アルプススタンドのはしの方』が大好きなので、同じようなタイプの作品かと劇場へ足を運んだが、似て非なる別のもの。
起承転結もあってないようなもので、結局彼女たちの中で何かが大きく変わったということもないのかもしれないが、それでもプールに来た時と帰る時ではおそらく幾つかは違う選択をするのだろうことを想像させて終わる。
色々と心に刺さる一本だった。
【ひとりごと】
完成披露試写会での5人(ココロ、ミク、チヅル、ユイ、リンカ)を見ると、良くも悪くも劇中人物とはまるで違う。
それもまたリアルだ。