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『クラバート』 オトフリート・プロイスラー

不思議な夢に導かれて、コーゼル湿地にある水車場を訪ねた孤児のクラバート。そこで彼は隻眼の親方に迎えられて粉ひき職人の見習いになり、11人の仲間たちと暮すようになる。そこは魔法の学校でもあり、クラバートは他の職人仲間たちと一緒に魔法を学ぶようになるが、その間に色々と不思議なことが次々に起きる。遂には大晦日の晩、信頼厚い職人頭が不可思議な死を遂げるという事件が起こるのだが、他の職人仲間が何事もなかったかのように振舞うのを見て、クラバートは密かにこの水車場の謎を探ろうとしだす。しかしそこには恐るべき秘密が隠されていたのだった。一年後、再び同様の事件が起こる。そして二年後、今度は直接クラバートに関りだしてきた。
水車馬での楽しい毎日の暮らしの描写とその裏に隠された暗い影、この二面性が大変魅力的な物語で、自分の意思をしっかり持つこと、それと友情の大切さなどが厭味なくこめられている。

個人的にちょっと引っ掛かったのは、水車小屋の職人と魔法使いというイメージが何となく結びつかないことと、キー・パーソンとなる少女とクラバートの結び付きが弱いと感じられる点だろうか。それにラストの親方との対決も、あっさりとしすぎなのも残念である。

元々は17世紀から18世紀のラウジッツ地方(ドイツとポーランドに跨る地域)に伝わる<クラバート伝説>を下敷きに、『大どろぼうホッツェンプロッツ』などで知られるプロイスラーがまとめたものということだが、そんな伝説があったことさえ初耳、あちらでは相当有名なお話なのだろうか。

なお文庫版の帯には「いい本です。自信をもっておすすめできます。」という宮崎駿監督の推薦の弁が載っているが、公開当時には『千と千尋の神隠し』との類似点が幾つかあげられ、本人もその影響は否定していなかったはず。更に今回の『ハウルの動く城』でも、原作にないハウルが鳥に変身する件など、この『クラバート』の影響だと指摘する声も少なくない。
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Tracked from おいしい本箱Diary at 2006-05-14 22:41
タイトル : クラバート オトフリート・プロイスラー 中村浩三訳 偕成社
土と因習の匂い。死が背中あわせに待つ閉塞感。 これは児童書でありながら、人の無意識の中に巣くう 夢魔が形をとってあらわれたような物語。 舞台は近世ドイツの、湿地帯にある水車小屋。 村をまわって物乞いをする貧しい生活にくたびれた 14才の少年、クラバートはある日夢で彼をさそうカラスの 夢を見る。その声にしたがってコーゼル湿地のほとりに ある水車小屋にやってきた彼は、まるで当たり前のように そこで働くことになる。なにしろ寝るところと食べるものがある、 というだけでもクラバート...... more
Commented by ERI at 2006-05-14 22:41 x
文庫にもなってるんですね。知らなかったなあ~。私が読んだのは、図書館の古い古い初版のもの。こう、頁が黄ばんでいて、この本の雰囲気にぴったりでした(爆)この挿絵が好きなんですが、映画はどんな雰囲気なんでしょう。楽しみです。
Commented by odin2099 at 2006-05-15 21:43
文庫と言っても子ども向けのものなので、実際のサイズは新書版ほどです。
上下二分冊になってまして、表紙や挿絵は同じ。
まぁお手軽なハンディ・タイプというところですね。

アニメ映画はちょっと雰囲気違いますけど、味があって良いですよ。
by odin2099 | 2005-01-05 21:43 | | Trackback(1) | Comments(2)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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