『続・柳生一族の陰謀』 松永義弘
2025年 06月 03日
「伏魔殿の首魁は松平伊豆守信綱でござりますか?」
「さよう……その方もいまの家光公がにせものであるとは承知であろう」
保科正之を擁立する老中阿部若狭守は不機嫌そうに仁田に言った。
家光は一年前、柳生十兵衛の刀に倒れていた。
その返す刀で斬りつけた父柳生宗矩はその時の傷がもとで重い病にかかり、死を迎えていた。
宗矩の遺命を受けた宗冬は家光、松平伊豆守等と共に権勢を守っていく。
が、兄十兵衛をはじめ、多くの難敵が……!
波乱万丈、奇想天外な伝奇ロマン!
好評『柳生一族の陰謀』の続編。

どこの馬の骨ともわからぬ影武者より、保科正之ならば遥かに正当な血筋という訳だ。
対する松平伊豆と柳生宗冬はこれを阻止せんとし、また宮中でもこの機に乗じようとする勢力が現れ、というのが今回の主筋。
これに大名と旗本の対立、それを象徴する荒木又右エ門の鍵屋の辻の決闘が絡み、更に終盤には島原の乱が勃発し、という具合に次々に歴史上名高い事件が起きるのだが、逆にそのことが物語全体を散漫なものに見せてしまっているような気がする。
宗冬も伊豆も魅力的な人物とは到底言えぬが、対する保科正之も好いように扱われている駒に過ぎない。
名君との誉れ高い人物なだけに、それを納得させてくれるだけに器量の持ち主として描かれているならば良かったのだが、阿部に利用され、柳生に手玉に取られでは盛り上がるものも盛り上がらない。
また前作の一方の主役であった十兵衛や根来衆の生き残りのハヤテにしてもさほど出番はない上に、十兵衛は情けないほどあっさりと退場してしまう。
粗筋を読んだ時は或いは前作を凌ぐ物語が紡がれるかとワクワクしたものだが、とんだ肩透かしを食らったものである。