『風の又三郎/ガラスのマント』(1989)
2025年 06月 07日
この作品には圧倒された。
よく「風」をあそこまで演出したな、という感じである。
そして冨田勲の音楽が、これに見事にはまるのだ。
「どっどど どどうど どどうど…」という単調な「又三郎のテーマ」だが、これも何となく郷愁を感じさせるというか心に染入るメロディで、作品にのめり込ませた。
しかし何と言ってもこの作品の最大の魅力は、映画用オリジナルキャラクターで主役の「かりん」を演じる早勢美里にあるといっても過言ではない。
今春小学校六年生になるというこの11歳の美少女は、三千人の候補から選ばれた素人とのことだが、どうしてどうしてなかなかの演技派。
願わくば将来的に素敵な女優になってくれたらーと思う。
変な役を演らせてつぶしてしまう傾向が強いだけに、子役としても真剣に育てて欲しいものだ。
兎に角原作にないキャラを作り、しかもそのキャラを中心に描いているだけに、そのキャラに魅力がなければ映画は失敗作になるのだが、その点彼女は十分に合格点であった。
勿論映画そのものの完成度も高いものではあるのだが。
年に一本はこういう作品、作って欲しいものである。

監督は伊藤俊也、出演は早勢美里、小林悠、檀ふみ、樹木希林、草刈正雄ら。
これは公開当時に見た時のメモを引用したものだが、作品にベタ惚れしているのがわかる。
今日までDVDもBlu-rayも発売されていないが(辛うじて中古でVHSソフトは手に入れた)、最近WOWOWが取り上げてくれたので36年ぶりに鑑賞。
今見てもこの作品の早勢美里は輝いている。
美少女は美少女でも都会育ちの洗練されたという感じではなく、作品に相応しく自然の中で映える純朴な美少女といった趣きだ。
ではあっても、同級生の男の子たちからすれば、イジメたくなるほどの可愛らしさで、何だかんだで(彼らは決して認めようとはしないだろうが)学校のマドンナ的である。
対する高田三郎は、ちょっとキザでスマートなイケメン転校生といったキャラ作りがなされていて、同級生たちが「かりん」をイジメるのも、三郎少年に対する嫉妬心があるのだろうなと窺わせてくれる。
メモの中でそんな早勢美里の行く末を案じているのは、丁度この頃は「美少女ブーム」が起こっていて、子役出身者、タレント予備軍、素人、とローティーンの女の子が大量消費されている状況を具に見ていたからだろう。
一時は持て囃されても、ほとぼりが冷めると今度は年齢以上に背伸びした役や汚れ役、あるいは脱ぎ仕事を宛がわれ、いつの間にか消えていった少女たちは相当数いたように記憶している。
当の彼女自身はこの数年後、「南アルプスの天然水」のCM(「先生、キスしたことありますか?」のコピーで有名になった)に起用され話題になったものの、結局は実働10年ほどで引退してしまった模様。
個人的には『ウルトラマンティガ』と『ウルトラマンダイナ』(母親役!)のゲスト出演を覚えている程度だが、それで良かったのかも知れない。