『高校時代に好きだった元同級生のＳ級美女が隣に引っ越してきた。義娘とともに。』 篠宮夕

毎日会社と自宅を往復するだけの日々を送る堀越京也。
そんなある日、京也が高校時代に好意を寄せていた水瀬彩奈が義娘の愛莉と一緒に隣に引っ越してくる。
十年ぶりの再会に少し戸惑いつつも、彩奈が愛莉を引き取った理由、そして誰にも頼らず生きてきたことを知った京也は、彼女を放っておけず自然と彼女たちに関わるようになる。
ぎこちなくも温かな時間を重ねるうち、三人はまるで家族のようになるのだが、彩奈から「もう、君には頼れない」と距離を置かれてしまい……。
これは好き同士だった二人が“家族”になる物語。

かつての憧れのアイドルが、シングルマザーになって隣家に越してきた。
……んだと思ってたのだけれども、娘じゃなくて義娘。
未婚だったりバツイチだったりのワケありで、ちょっと重たい展開なのかなと身構えてしまったのだけれども、行方不明になった姉夫婦の娘、つまり姪を引き取って共に暮らしているということ。
といっても養子縁組を結んで義理の親子になってるのではないっぽいので、そうなると義娘じゃなくてただの姪のままなんじゃないのかな。

京也は学生時代に彩奈に恋心を抱いていたけれど、彩奈の方はそうではなかった。
ただ何かと気になる存在ではあったようで、無自覚で意識していたといった感じなのかな。
結局のところ両片想いか、それに近い状態ではあったようで、傍から見ればバレバレだったようだ。
そのことを指摘したのは愛莉の友人の母親で、京也と彩奈のクラスメイトだったもう一人のアイドル・相森（旧姓・倉木）詩葉に再会した際にそれぞれ指摘され、そこからお互いに意識が始まっていく。

愛莉は早い段階で京也に懐き、京也と彩奈をくっつけようと画策したりするのだが、二人の関係はなかなか進展しない。
それは主に彩奈の側に原因があり、事情を知らない京也はかなり戸惑うのだが、それでも徐々に二人の距離は近づいていく。
最後は――安易に二人が結ばれるという結末ではないものの、そういった未来を予感させる綺麗な終わり方ではある。
尤も続きの構想はあるようなので、３人が”家族”になった姿も見たいものである。

ところでこの作品はWEB版を改稿して書籍版にしたという成り立ちなのだが、両ヴァージョンには少々違いがある。
まずWEB版では京也を慕う職場の後輩女性が準ヒロイン格で登場し、京也と彩奈の関係を引っ掻き回す役割を担っている。

また詩葉（こちらでの姓は花森）は独身で、クラス会を通じて京也と彩奈の仲を取り持とうとしているし、そのクラス会では他にも同級生が何人か出て来てちょっかいをかける場面がある。
他にも京也の母親が出てきたりで、大筋は変わらないものの場面によってはムードがかなり異なるものに。
第２巻が出るかどうか、出たとしてどういうお話になるかはわからないけれど、京也の後輩社員の春野さん、出てきてかき回してくれてもいいんだけれど…？