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『不死鳥の剣/剣と魔法の物語傑作選』 R・E・ハワード他/中村融:編

<ヒロイック・ファンタジー>――「剣と魔法の物語」。
そのジャンルの定義には諸説あるようだが、幻想の超古代、魑魅魍魎が跋扈し、魔術師が暗躍する中、己の剣一本を頼りに生き抜く蛮人、というパターンを生み出したロバート・E・ハワードの<コナン>シリーズが嚆矢であることには異論がないだろう。
自分の場合も、このジャンルとの出会いは<コナン>だった。
もっとも本当の<コナン>ではなく、映画化された『コナン・ザ・グレート』ではあったのだが、たちまち惹かれるものを感じたのは確かだ。

『不死鳥の剣/剣と魔法の物語傑作選』 R・E・ハワード他/中村融:編_e0033570_90350.jpgこのアンソロジーは<ヒロイック・ファンタジー>を代表するであろう作品群を、発表年代順に編んだ日本オリジナルのもの。
ロード・ダンセイニの「サクソスを除いては破るあたわざる堅砦<オーラスリオンの領主の息子レオスリック>」に始まり、ハワードの「不死鳥の剣<キンメリアのコナン>」が続き、ニッツィン・ダイアリスの「サファイアの女神<オクトランのカラン王>」、C・L・ムーアの「ヘルズガルド城<女戦士ジョエリーのジレル>」、ヘンリー・カットナーの「暗黒の砦<サルドポリスのレイノル王子>」、フリッツ・ライバーの「凄涼の岸<ファファード&グレイ・マウザー>」、ジャンク・ヴァンスの「天界の眼<切れ者キューゲル>」、そしてマイクル・ムアコック「翡翠男の眼<黒き剣のエルリック>」の計八篇が収められている。
七篇が新訳であり、うち三篇が本邦初訳という贅沢振りだ。

この中で自分に馴染みがあると言えるのは、ハワードの<コナン>と、マイクル・ムアコックの<エルリック・サーガ>
どちらもシリーズ作品を何篇か読んでいる。
力だけで解決していく<コナン>も、複雑な運命に翻弄される<エルリック>も対極の存在でありながらどちらも魅力的だ。

特に気になる存在は<エルリック>、というよりもマイクル・ムアコック作品全般だと言えようか。
というのもムアコックは、コルムやエレコーゼ、ホークムーンといった他のシリーズの主人公を始めとする全ての作品の主人公を、多元宇宙の概念を持ち込むことで一人の人物の転生・分身と捉え、一つの巨大な物語に仕立てあげようとしているからだ。
それが最終的にどう実を結ぶのか(或いは結ばないのか)、心して待ちたい。

また<コナン>はアーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画二本の他にもTVシリーズ化され、今また映画化企画が始動していると聞く。
一方の<エルリック・サーガ>も、『ライラの冒険/黄金の羅針盤』の監督クリス・ワイツが最近、兄であるポール・ワイツと共同で映画化構想を語っていた。
どちらも完成が楽しみだ。

それ以外は初めて読むものばかりなので、特に楽しみにしていたのは名前だけは以前より知っていたC・L・ムーアの<処女戦士ジレル>のシリーズで、女性作家の描く女戦士とはどういうものなのかに興味があったのだが、収録された物語のせいだったのかもしれないが、今ひとつ面白みが感じられなかった。
何れ他の作品も読んでみたいものだが、絶版になって久しい。

逆に期待せずに思わず引き込まれたのはダイアリスの「サファイアの女神」。
そしてシリーズ作品全部を読みたくなったのが、カットナーの作品(他のシリーズ作品としては<アトランティスの王子エラーク>物もあり、こちらも是非)と、ライバーの<ファファード&グレイ・マウザー>シリーズか。
<コナン>も<エルリック>も新編集で再発売されており、このブームを機に他の作品も復刻・復刊、あるいは新規刊行が進むことを望みたい。

最後になるが本書は、「神秘と冒険の『指輪物語』の系譜」とある通り、『指輪物語』ブームの余波によって生まれたものである。
トールキンの『指輪物語』も<ヒロイック・ファンタジー>を語る上では外せない重要作品であり、人によっては<ヒロイック・ファンタジー>の王道中の王道だと説く人もいるようなのだが、どうも個人的には<ヒロイック・ファンタジー>の範疇に属しない、むしろ対極に位置する作品なのではないかと思えてならないだが、如何なものだろうか。

by odin2099 | 2007-09-16 09:03 | | Trackback | Comments(0)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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