『フライジング条約事件』 クイン・フォーセット
2007年 10月 27日
イギリスとドイツの間で結ばれた「フライジング条約」の条約文を、秘密結社が狙っているとの情報を得たイギリス政府高官マイクロフト・ホームズ。この条約が漏れると、ヨーロッパ各国が大混乱に陥ることは必至だ。ホームズは秘書のパターソン・ガスリーを結社内に送り込み、自らも条約を守るべく敵地へと乗り込んでゆくのだが・・・。
これもシャーロック・ホームズ物のパスティーシュの一種だろうが、主人公はホームズの兄マイクロフト・・・ではなく、その秘書のパターソン・ガスリー。
シャーロックの方は存在を匂わせる程度で全く登場せず、原典では「動かない」と表されているマイクロフトがガスリーと一緒に大冒険を繰り広げるのだが、これにはシャーロッキアンならずとも違和感が残るのではなかろうか。目先を変えたつもりなのだろうが、これではキャラクターが別物になりすぎだろう。ガスリーの上司がマイクロフトである必然性が感じられない。
それでも冒険小説としてはなかなか楽しめるのだけれども、肝心の「フライジング条約」がどんなものなのかピンとこないし、結社が何者なのかもわかりづらいのは惜しい。今のところシリーズ化され4巻まで刊行されているらしいので、これ以降の作品ではキャラクターの知名度に頼りすぎていない作品になっていると良いのだが。