『七都市物語』 田中芳樹
2007年 12月 19日
だが月に残った人々は自らの優位性を維持するために<オリンポス・システム>――地上500メートル以上を飛ぶ飛行物体を無人軍事衛星により即座に破壊するシステム――を構築する。後に月面都市の人類は滅亡してしまうのだがシステムは生き残り、これによって人々の生活は海と陸に限定され、レーダーも空中兵器も殆ど存在しない世界では、艦船が主要な位置を占めている。そのため未来世界を舞台にしながらも、どこか架空戦記モノの様相を呈している。
七つの都市――アクイロニア、プリンス・ハラルド、タデメッカ、クンロン、ブエノス・ゾンデ、ニュー・キャメロット、サンダラー――は、ある時は同盟を結び、ある時は敵対し、互いに牽制しあいながらもいつかは他の都市の上に君臨することを狙っていた。当然それら各都市を代表するような一癖も二癖もあるような連中が跋扈し作者特有の丁々発止のやりとりを見せてくれるのだが、短編集ということもあってか各キャラクターの魅力が今一つ伝わってこない。
物語自体もまだまだ序盤という雰囲気で、これまでのところ発表されているのは「北極海戦線」、「ポルタ・ニグレ掃滅戦」、「ペルー海峡攻防戦」、「ジャスモード会戦」、「ブエノス・ゾンデ再攻略戦」の五篇。早めのシリーズ再開を望みたいところだったが、小川一水・森福都・横山信義・羅門祐人の四人の連名で『「七都市物語」シェアードワールズ』が出版された今となっては、作者本人の手になる続編は望み薄か。
また「北極海戦線」のみOVA化されているが、こちらもシリーズ化はならず。