『恐怖の谷』<新訳シャーロック・ホームズ全集> アーサー・コナン・ドイル
2008年 02月 08日
3ヶ月毎の刊行というペースだった<新訳シャーロック・ホームズ全集>も、とうとう全9巻完結となりました。これまでもホームズ物のパロディ、パスティーシュの類は何冊か読んできましたが、もうこれから新しく読むことの出来るのは”贋物”しかない、というのはかなり寂しいことです。
小説としては、「面白かった」と思える作品は実はそれほど多くはないのですが、ホームズやワトスンといったキャラクター、それに独特の世界観には大いに惹き付けられるものがありましたので、これからはどんなに優れた作品に出会おうとも所詮は紛い物なのだなと思うと残念ですね。
この作品は発表順としては7冊目となります。ホームズ最後の事件という訳ではないのですが、長編作品としては最後ということでこの全集では一番最後の配本となったようです。
前半と後半、二部構成になっていて、前半はホームズにとってリアルタイムで起った殺人事件を解決するまでのお話。そして後半では過去に遡って、今回の事件が起った因縁話が披露されています。最後に付いたエピローグを除くと後半ではホームズは一切登場せず、全体の分量も後半の方が長いので、ホームズの印象は若干薄めになっています。そして物語としても前半部分のトリックよりも、後半部分のどんでん返しの方が組み立ても上手くいっており、面白いと思います。ということは、独立した作品としてもホームズのシリーズ物の一冊としても、あまり出来は良くないということになりますが、意外性と言う点ではシリーズでも上位に来るのではないでしょうか。