『白昼の悪魔』 アガサ・クリスティー
2008年 02月 09日

これが映画『地中海殺人事件』の原作小説です。映画ではタイトル通り舞台が地中海になっていますが、この原作では英国の避暑地という設定。それ以外にも随分と改変が施されていますので、原作に思い入れタップリな人は映画版にかなり戸惑ったことでしょうね。
キャラクターもかなりアレンジされたり、省略されたり、複数の人の役回りを一人に集約させたりと、皆殆ど別人と言って良いかも知れません。ただ、犠牲者と犯人だけは概ね原作に沿っていることがわかります。映画の解説を読むと、原作とは犯人を変えてあると書かれているものもあるのですが、犯人そのものは変っていません。そこまで変えてしまったら、もはや原作付きの意味はないでしょう。
原作と映画の目立つ違いというと、全体的に映画の方がスケールダウンしていることが挙げられます。普通なら原作をベースにスケールアップさせて映画化しそうなものですが、この作品では逆。
映画では半分まで来てようやく事件が起りますが、原作では序盤の約四分の一ぐらいで早くも事件が起ります。そして穏便に済ませたいというホテルの女主人の意向でポワロが解決に乗り出すのですが、原作では地元の警察官が捜査に当たり、ポワロはそれに協力するという形です。そして滞在客たちもスキャンダル絡みとあってマスコミの格好の餌食となってしまいます。
しかし一方で舞台は英国の避暑地から地中海へと移っているわけですし、キャラクターを絞り込み、それに名のある役者陣を当てている訳ですから、スケールアップと言えなくもないのですがね。
犯人像の謎解きの興味という点では原作に軍配が上がりますが、映画版は映画版で「ま、こういうのもありかな」という感じです。これは自分がクリスティー・ファンではないから言えることかも知れませんが。